セントマザー産婦人科医院 田中 温先生のオンライン質問会

顕微授精での妊娠率や、正常胚を育てるための方法、PCOS の治療法など、幅広い質問にわかりやすく答えてくださった田中先生。追加で寄せられたチャットの質問にも丁寧に説明してくださいました。常に熱く、ストレートなメッセージを投げかけてくださる田中先生の治療にかける思いも伝わり、内容の濃い質問会になりました。

セントマザー産婦人科医院●田中 温 先生 順天堂大学医学部卒業。膨大な数の研究と実験は毎日深夜にまで及び、1985年、ついに日本初のギフト法による男児が誕生。1990年、セントマザー産婦人科医院を開院。現在も研究と実験に精力的に取り組んでいる。日本受精着床学会副理事長。順天堂大学医学部客員教授。

PCOSで40歳、妊娠を目指すためには?

採卵2回、5回移植して2度流産。胎児染色体は正常で不育症検査も異常なし。現在、着床前診断の結果待ちです。なかなか治療の結果が出ず、気が滅入ることもありますが、何かほかにできることはありますか?
司会●PCOSは妊娠にどのような影響があるのでしょうか?
田中先生●多囊胞性卵巣症候群(PCOS)は、若い女性の排卵障害では多く見られる疾患です。排卵誘発法の注射で卵巣が腫れるという非常にリスクの高い副作用があり、どうしても刺激を弱くするというのが今までの一般的な考え方でした。また、採卵数は多いものの卵子の質が低く、妊娠・出産に至るのが難しい傾向にありました。
 そんななか、私がたどり着いたのは、PCOSを病気ではなく“個性”ととらえること。刺激を強くして採卵数を増やしても、卵子の質を下げず、副作用を起こさないようにする。そうすれば、卵胞が多いという“個性”を生かすことができる、というのが私の持論です。質を下げずに十分な数の卵胞を採取し、PGT – A検査で染色体異常のない受精卵を移植することで、「子どもを抱く」という願いが叶うはずだと信じ、治療に取り組んでいただきたいですね。
司会●ご自身でも体質改善のためにできることを日常生活に取り入れているようです。
田中先生●長年の不妊治療で悩みや不安もあるなか、本当に頑張っていると思います。
 治療が長引くほど、経済的な負担も大きくなりますが、二人でできる体質改善で大切なことは、“継続”です。規則正しい食事、少し心拍数が高くなる程度のウォーキングやジョギングは老化を防ぎ、全身の若返りも。私自身も実践していることなので、皆さんにもおすすめしたいと思います。

子宮筋腫と妊娠の可能性について

現在32歳で、最近2cmほどの子宮筋腫があると言われました。子宮筋腫があっても妊娠可能ですか?
司会●子宮筋腫と妊娠の関係について教えてください。
田中先生●子宮筋腫は、できる場所によって筋層内筋腫、奨膜下筋腫、粘膜下筋腫に分けられます。
 そのなかで、妊娠に影響するかどうかのポイントは、筋腫の大きさと場所です。筋腫の大きさが6〜7cm以上ならどの場所にできていても切除するのが一般的です。
司会●相談者さんは2cmとのことですから、切除をする必要はないと思われますか?
田中先生●大きさとしてはまったく問題はないでしょうが、もしも粘膜下にできた筋腫であれば、大きさにかかわらず切除することをおすすめする場合があります。
 ただし、粘膜下筋腫は非常に強い月経痛や過多月経などの自覚症状があります。それらの症状がなく、過去に習慣流産(3回以上連続して流産すること)の経験がなければ、筋腫自体が妊娠に影響しているわけではないと判断し、切除しないという方針になるでしょう。
司会●筋腫の大きさや場所、自覚症状などによって、手術をするかどうかが決まるのですね。
田中先生●主治医が不妊治療専門医であるなら、私と同じ方針になると思います。まずは筋腫ができている場所を把握してもらい、自覚症状の有無などから手術をするべきかどうかの判断をしてもらってください。

刺激方法について、アドバイスをお願いします

自己注射が怖くて1回目は低刺激法を希望。2回目はショート法で採卵数13個、胚盤胞2個。3回目も同じような結果です。胚盤胞が少ないのですが、先生ならどのような刺激法で行いますか?
司会●なぜ、胚盤胞が少ないのでしょうか?
田中先生● AMH 値が3.25ng/ml と高いのに、採卵数も胚盤胞の数も少ないと感じます。おそらく多囊胞性卵巣症候群(PCOS) の副作用を心配して、刺激の低い方法で様子を見ながら行う治療法ではないでしょうか。きちんと刺激し、一度の採卵数を増やせれば確率的に胚盤胞まで到達する数は増えます。相談者さん自身にも自己注射に抵抗があるようですが、排卵誘発は治療の成功率にも大きくかかわりますので、ぜひ頑張って練習していただきたいですね。
司会●その他、何か気になることはありますか?
田中先生●記載漏れかもしれませんが、卵胞刺激ホルモン(FSH)は測っているのに、なぜ黄体形成ホルモン(LH)と卵胞ホルモン(E2)を測っていないのでしょうか。排卵に影響するLH、卵胞の発育を加速させるE2 を測るのは基本中の基本です。もしも記載漏れではないのなら、主治医に検査を依頼することをおすすめします。
司会●最後に、アドバイスをお願いします。
田中先生● PCOS の患者さんは多いのですが、きちんと刺激をすれば副作用を起こさず、卵子の質も落とさずに胚盤胞を複数個得ることが可能です。少ない採卵回数で2人目、3人目を望むことができるのもPCOS の特徴ですから、前向きに治療していただきたいですね。
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全記事、不妊治療専門医による医師監修

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