一般不妊治療と比べて費用が高額ですが、保険診療が導入されて挑戦を考えている人もいるのでは?
ARTの基本的な治療内容や検討するうえでの心構えなどについて、松本レディースリプロダクションオフィスの松本玲央奈先生にお話を伺いました。
卵巣刺激で複数の卵子を採取。妊娠率向上が期待できる体外受精
体外受精とは文字通り、体の外で受精をさせる治療法。手順としては、まず卵巣刺激といって注射薬や飲み薬を使って卵巣に刺激を加え、中に卵子が入った袋状の卵胞を育てていきます。通常は1周期で卵胞が1個育って1個排卵するのですが、卵巣刺激をすることによって複数の卵胞を育てることが可能になり、うまくいけば複数の卵子を採ることができるようになります。それにより、妊娠率の向上が望めます。
卵胞が育ったら針のようなものを卵巣に刺し、卵子を卵胞の中に入っている水分と共に回収します。取り出した卵子に男性から採取した精子を合わせて受精させるのが体外受精で、いわゆる「振りかけ法」というやり方。顕微鏡下で卵子に針を刺して精子を入れ、受精まで人の手で行うのが「顕微授精」という方法になります。
生理周期が正常なら採卵まで3、4回の通院が必要に
治療の期間についてですが、採卵まではだいたい3、4回くらいの通院は必要になると思います。生理周期が28日程度であれば14日目あたりで採卵になることが多いのですが、生理周期が不順な方は採卵日の予定を立てることが難しく、結果として通院の回数が増えてしまうケースもあります。一概に何日、何回とは断定できず、患者さんによって治療にかかる日数や通院頻度は変わってくると考えていただいたほうがいいでしょう。
保険診療になっても治療の流れは大きく変わりません
2022年4月から不妊治療に保険が適用されるようになりましたが、保険診療になるからといって生殖医療の理論が変わるということはありません。ですから、治療の進め方が大きく変わるということはないでしょう。
金銭面でのハードルが下がるので、これまで不妊治療、特に体外受精による治療を迷っていた方には喜ばしいことだと思いますが、一つ注意していただきたい点があります。それは大前提として不妊症の条件を満たさないと保険診療は受けられないということ。わかりやすい形でたとえれば「風邪ではないけれど、風邪を引いた時のために風邪薬をください」といっても難しいのですね。
「1年間夫婦生活を行っても妊娠に至らない」というのが不妊症の定義。この定義に当てはまる、もしくは機能性不妊、子宮性不妊、卵管性不妊、免疫性不妊、子宮内膜症、排卵障害、男性因子による不妊などの条件があれば保険適用でさまざまな治療を行えます。
このような適用条件が提示されていますが、その程度や、一般不妊治療においてタイミング法や人工授精に何回チャレンジして結果が出なかったら保険による体外受精が可能になるかなど、具体的な数字は現状施設による独自の判断となり、公には詳しく定められていません。前述したように保険適用以前と治療の進め方は大きく変わりませんが、各治療の期間やステップアップのスピードは施設によって多少異なってくることもあるでしょう。
また、保険診療を選んだら、自由診療のオプションはつけられない、つまり混合診療はできないので、そこも注意して、医師とよく相談しながら自分にとってベストな治療を選んでいただきたいですね。