次の採卵は高刺激のほうがいいのでしょうか?

多発性子宮筋腫で手術後、採卵難しく、胚盤胞育たず。
次回は高刺激を選ぶべき?
腹腔鏡で多発性子宮筋腫を2回手術したあと、低刺激で採卵できても胚盤胞まで育たず、採卵できない周期もあったというステラさん。高刺激で誘発すれば成功する可能性は高まるのでしょうか? セントマザー産婦人科医院の田中温先生に教えていただきました。

セントマザー産婦人科医院 田中 温 先生 順天堂大学医学部卒業。膨大な数の研究と実験は毎日深夜にまで及び、1985 年、ついに日本初のギフト法による男児が誕生。1990 年、セントマザー産婦人科医院を開院。現在も研究と実験に精力的に取り組んでいる。日本受精着床学会副理事長。順天堂大学医学部客員教授。

ドクターアドバイス

●40 代以上は高刺激&ピエゾ顕微が有効。
●着床前診断で正常胚を戻す。
●正しい情報と知識を得て治療。

ステラさん(41 歳)からの相談 多発性子宮筋腫を腹腔鏡で2回手術しました。最近結婚したばかりですが、タイミング法などは試さず、すぐ体外受精を開始しました。クロミッドⓇの低刺激法で、1周期目はふりかけ法で5分割くらいの胚を移植しましたが陰性。2周期目はふりかけ法で胚盤胞まで育てる予定が6日くらいで培養中止。3周期目はすべて空胞で採卵できませんでした。AMH 値は3.20ng/ml、夫の精子にも問題ないようです。採卵できても胚盤胞まで育たなければ移植できないことから、私にはもう少し高刺激の方法がいいのでしょうか? また、仕事的にどうしても休めない時があるので、予めスケジュールの予測がつきやすい方法があれば知りたいです。

子宮筋腫は自覚症状の有無や位置、サイズ次第で手術の適応になる

──多発性子宮筋腫が不妊症の原因の一つと考えられますか?

田中先生●多発性子宮筋腫自体は一つひとつのサイズがとても小さく、必ずしも不妊症の原因になるとはかぎりません。しかし、貧血や下腹部痛、膀胱炎などの自覚症状がある場合は、不妊症というよりもむしろ健康的な体を守るという意味から子宮筋腫が手術の適応になることはあります。また、筋腫の位置によっては、たとえば粘膜下筋腫であればサイズこそは小さくても月経血が非常に多く、着床不全を起こしやすいため不妊症治療の適応になります。多発性子宮筋腫があるからといって不妊症になるとはかぎりませんが、自覚症状があるかないか、粘膜下筋腫かどうかはポイントになるでしょう。

ステラさんの場合はすでに筋腫除去手術を2回行っていますよね。もし、不妊症の原因が筋腫だったのならば除去後に妊娠できているはずなのですが、現時点ではそうではないので、ステラさんの不妊原因は筋腫ではないだろうという結論になります。

ベストは高刺激で採卵数を増やし、着床前診断の結果が良好な胚を移植

──次回は高刺激のほうがよいのではないか、とのことですが先生はどう思われますか?

田中先生●質問にあった「治療スケジュールの予測しやすい方法」ということであれば、低刺激でも高刺激でも変わりません。私の提案は排卵誘発を低刺激ではなく高刺激にしてなるべく多く採卵し、着床前診断検査をしましょう、ということ。41歳では胚の染色体異常が6〜7割に認められることがデータで示されています。ステラさんの年齢からすると、卵巣予備能を測るAMH値は3.2ng/mlと高く、卵巣は機能しているようですから、きちんと高刺激で刺激をすれば10個程度は採卵できるはずです。受精方法はふりかけ法ではなく、40歳以上での胚発生率が高いピエゾ顕微授精を行い、胚盤胞を5〜6個貯めて着床前診断へ。染色体が正常な胚1個あたり60%の着床率がありますから、正常胚が2個あれば赤ちゃんを抱ける可能性が極めて高くなります。

クリニック側から正確なデータを示せば、患者さんは目標を立てやすくなります。40 歳以上はスピード重視で治療に向き合うべきだと言われている理由も、データを知ればより納得していただけるでしょう。

子どもを望む思いの強さや背景によって、複数の方法から何を選ぶかを決める

田中先生●私は常に、40歳以上のご夫婦には「子どもを欲しいと思う気持ちは100点満点中何点ですか?」と質問します。体外受精の不成功が続く、胚盤胞まで育たない、採卵しても空胞という状態のまま続けていても、子どもを抱ける確率は残念ながら年齢的にほとんどないという現実があります。それぞれのご夫婦で事情や思いは違いますから、まずはその背景を我々もしっかりと確認します。そして、年齢的に難しいことはわかっていても子どもを強く望んでいるご夫婦には、国内でも「生まれてくる子の出自を知る権利を認める」という条件で卵子提供を受けることができ、提供者を見つけることができなければ法の下で卵子提供が行われている台湾での治療という選択肢があることなど、情報を正確に伝えます。

女性は35歳頃から卵巣機能が急激に低下し、50歳頃に閉経します。卵子が老化し、染色体異常が増え、妊娠しづらくなるのは治療中の患者さんにとってつらいことかもしれません。しかし、女性の体を高齢出産のリスクから守り、長く健康に生きるための自然な現象だととらえてください。採卵個数をできるだけ増やす方法や確率の高い受精方法を選ぶこと、夫婦二人での将来も考えてみること、そして、卵子提供などの方法があること…。ご夫婦で思いを共有し、40代だからこそ用意された最良の方法を二人で選びましょう。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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