胚の移植の順序と採卵について

AMHが0.83と低く、3回行った胚移植はすべて陰性。現時点で凍結胚は4個残っています。移植する場合はどの胚から移植するべきか、または移植せずに改めて採卵したほうがよいのでしょうか? 北くまもと井上産婦人科医院副院長兼リプロダクション部門責任者の井上治先生にお話を伺いました。

北くまもと井上産婦人科 副院長 井上 治 先生 福岡大学卒業後、慶應義塾大学に入局し専門知識を獲得。東京歯科大学市川総合病院勤務、桜十字渋谷バースクリニック院長を経て、井上産婦人科の改築を機に帰郷。副院長兼リプロダクション部門責任者に就任した井上治先生は、「子どもをもちたいと願う患者さんにとってなるべく早く、最良の結果を」と、新しい知識を取り入れた治療を提案しています。
きなこさん(43歳)今年の夏に多発性(23個)の子宮筋腫摘出手術を受け、3か月避妊後に4個残っている胚を戻したいと思っています。4個のグレードは、初期胚(43歳時)、4BC(41歳時)、6BC(D6、41歳時)、5AC(D6、41歳時)になります。どの胚から移植したほうがいいと思われますか? 半年以上、漢方などで体質改善に努めていますが、年齢が若い胚から移植したほうがいいでしょうか? また、採卵の選択肢も視野に入れておいたほうがいいでしょうか? 子宮内フローラ検査はラクトバチルス率96.2%、これまでの移植はすべて5日目胚盤胞(4BB、4BC、4BC)を移植していて、いずれも陰性でした。

Q.4個の凍結胚を移植する場合、どの順番で移植すればよいでしょうか?

順番は採卵した年齢が若い凍結胚から。基本的には1個ずつ戻すよりも確率が上がる2個移植と二段階移植を提案します。

組み合わせはドクターの考え方にもよりますが、私なら筋腫核出後で双胎となった場合リスクはありますが、まず41歳時の6BCと5ACを2個同時に移植します。残りは43歳時の初期胚と41歳時の4BCの組み合わせになりますが、採卵時の年齢や胚のグレードから妊娠率はかなり低くなると思われるので、初期胚移植後に胚盤胞の4BCを戻す二段階移植を提案します。

Q.体質改善をしていても、若い年齢の凍結胚から移植するべきですか? もしくは、移植せずに改めて採卵を行ったほうがよいでしょうか?

これも考え方次第ですが、「妊娠」のことだけを考えるのであれば胚盤胞を貯めることを優先したいので、私なら移植せずに採卵を勧めます。妊娠率を考えると凍結胚盤胞を10個以上貯めたいところですが、年齢的には厳しいと思われるので、少しでも数を増やす方法を考えます。

ただ、きなこさんは41歳の採卵時には6個、9個と採卵できているのに43歳では1個のみと2年間でなぜそこまで下がったのか、刺激の方法の違いか卵巣機能の低下か詳細がないためわかりません。個数が採れない理由が低刺激であれば、高刺激をして数を増やします。刺激をしても1個しか採れなかったのであれば、高刺激をしても結果は同じになると思われるので、初期胚を貯めて2個移植を繰り返し行う、という方法がよいでしょう。

Q.現時点では不妊原因は不明とのことです。検査や治療の選択について教えてください。

年齢的に妊娠しない原因は胚側だと思われますが、粘膜下筋腫核出後のため、再発の有無や慢性子宮内膜炎の可能性など内腔精査のため子宮鏡検査は必ず受けていただきたいです。反復着床不全の検査は、移植した胚や残っている胚がすべて良好胚ではないため相談した上で実施するかを決めます。現時点では年齢的に胚盤胞まで育たない可能性や採卵数が少ないことを考えると、PGT-Aは選択肢には含みにくいかと思われます。卵巣に対するPRP(多血小板血漿)投与で卵が増える可能性はありますが、効果は個人差があります。

方法はいろいろありますが、いずれにしても自費診療になるので金銭的な負担は大きくなります。どれだけ子どもがほしいかや、金額の上限や治療期間はどのくらいに設定するのかなど、きなこさん夫妻は考えなければならない年齢に入ってきています。決して一人で悩まず、夫婦で話し合い、支え合って、今後のことを決めましょう。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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