【Q&A】転座~宇津宮先生

トトさん(35歳) 均衡型相互転座の夫がいます。保険適応の凍結胚があと2個残っています。今後について相談です。
①このまま2個を同時移植し、妊娠したら羊水検査を受ける
②凍結胚を融解し、PGTAに出す
③すぐに採卵に進み、PGTAに出す
せっかくの凍結胚を無駄にしたくないので①と②の選択肢で迷いますが、PGTAで良好胚だったとしても絶対妊娠できるわけでは無いので、一個11万円もするなら①の方がいいのかと悩んでいます。転座をもっていると90%の確率で流産と聞きました。羊水検査で陽性の場合は諦める決断も厳しいものですし、ご意見を頂戴したいです。

宇津宮先生に、お話しを聞いてきました。

セント・ルカ産婦人科 宇津宮 隆史 先生 熊本大学医学部卒業。1988 年九州大学生体防御医学研究所講師、1989 年大分県立病院がんセンター第二婦人科部長を経て、1992年セント・ルカ産婦人科開院。国内でいち早く不妊治療に取り組んだパイオニアの一人。開院以来、妊娠数は 9,500 件を超える。
※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいている為、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください。
PGT-SRについて
流産を繰り返す不育症の5%には夫婦のうち、どちらかに染色体異常があるといわれています。その大きな原因の一つが均衡型相互転座です。頻度は400人に一人と言われています。これは、何番目かの染色体の一部がそのほかの染色体の一部とお互いに入れ替わっていることを言います。よって、遺伝子全体の量は正常人の染色体と同じですから、表現型(その人の外見、機能、そのほかほとんど)は正常です。
しかし、配偶子(精子や卵子)が形成される時、染色体は減数分裂して、1倍体になり、受精すると1倍体同士が一緒になり、2倍体の正常染色体を形成します。この減数分裂時、転座部分が入った染色体の一部は遺伝子の多寡があり、受精時もう片方の正常な染色体をもつ配偶子と一緒になった時に、全体として遺伝子の量が異常になります。すると遺伝子異常の子どもができることになります。これは減数分裂時にどのような分離方法をとるかによって、その正常性(異常性)が分かれます。親に均衡型転座があった場合、それに由来する異常が子どもにみられるのは、母親由来なら10%、父親由来なら5%と言われています。
減数分裂の際、2:2分離の交互分離では、まったく正常な場合と均衡型(親と同じ)の場合となり、生まれる子の表現型は正常です。しかし、隣接分離、3:1分離、4:0分離では遺伝子量が異常となり、ほとんど正常から流産、死産、異常な表現型を伴った子の誕生など様々な表現型を示します。この異常の程度は転座部位の量によります。よってそのリスクは転座部分によるリスク計算をして推計します。
PGT-SRはこのような夫婦に流産を避けるために行われる方法です。胚盤胞のうち、胎盤になる細胞の一部を採取して該当する染色体(遺伝子量)の異常がないかを検査します。
その際、いったん胚盤胞は結果が出るまで凍結保存します。そして染色体(遺伝子量)異常のない胚盤胞が診断されたら凍結胚盤胞移植をします。ここで遺伝子量は正常ですから生まれてくる子の表現型は正常です。外見では染色体が正常の子と、親と同じ均衡型転座を持つ子との区別はつきません。また、染色体が正常であっても胚移植当たりの妊娠率は70%です(PGT-Aパイロットスタデイーの結果)。さらに、そのほかの遺伝子異常や各種の異常についても不明です。よって、転座がないからと言って100%妊娠するとか、まったく正常な子ができるとかは、ほかの生殖医療の場合と同じで保証できるわけではありません。
日本産科婦人科学会では2回以上流産を繰り返した経験のある場合、PGT-SRを認可しています。ただし、それを行う施設は前もって日産婦に登録しておく必要があります。現在、本邦では200余りの施設が登録されていますので誰でも依頼できる体制ができました。
このご夫婦の場合は、AMH3.86と十分で、妻35歳と若く、一人目は偶然、交互分離ででき、その後の流産はこの転座、もしくは単なる染色体異常、その他の原因によると思われ、PGT-SRの良い適応と思います。早くPGT認可施設に相談することです。しかし残念ながら現在保険適用されていません。
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全記事、不妊治療専門医による医師監修

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