何度も人工授精を行ってもなかなか妊娠できない。そういうカップルが考えなければならないのが、どのタイミングでステップアップするのがいいかという問題です。今回はPCOS(多嚢胞性卵巣症候群)と子宮外妊娠の既往がある20代の女性の悩みについて、銀座レディースクリニック(東京都)の石川聖子先生にお聞きしました。
石川 聖子 先生(銀座レディースクリニック 院長)1996年東京医科大学、2000年東京女子医科大学大学院医学研究科卒業。米国留学、東京女子医科大学生殖内分泌・不妊外来・ARTチーフ等を経て、銀座レディースクリニック院長に就任。医学博士・日本産科婦人科学会産婦人科専門医・日本生殖医学会生殖医療専門医。
今後の採卵方法と高刺激の体への影響について
ひなこ(29歳)人工授精7回目を先日しました。そろそろステップアップを考えなければいけない時期ですが、金銭的にも身体的にも負担が大きいのでなかなか踏み切ることが出来ません。PCOSということ以外は特に検査結果も夫婦共に問題ないのですが、早く授かるためにはステップアップすべきでしょうか。また、ステップアップするとしても来年からと考えており、今回リセットしても人工授精8回目をしようと思っています。何かやっておいた方が良いこと、逆に気をつけた方が良いことはありますか?
PCOSとは? 不妊の原因になるのでしょうか
PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)とは排卵障害の一つで、月経から排卵までの期間が長くなるのが特徴です。不妊の原因になるかというと、必ずしもそうとは言えず、排卵のタイミングに夫婦生活を合わせられるのであれば、自然妊娠は可能です。
一方で、月経不順がひどくて排卵のタイミングに夫婦生活を合わせられないようであれば、不妊治療を考えてもいいかもしれません。月経不順が続いて、なかなか妊娠につながらない場合は、一度、産婦人科や不妊専門施設などで相談されるといいでしょう。相談者のひなこさんもPCOSと診断されているとはいえ、子宮外妊娠であっても妊娠したことがあるので、妊娠の可能性はあると思われます。
今後のステップアップを迷っているようですが、先生のお考えはいかがですか
まず一般論として、人工授精を7回試されて妊娠しなかったご夫婦が、今後、8回目、9回目で妊娠する見込みが今までよりあるかというと、そうではないといえます。
ひなこさんの場合は子宮外妊娠の既往があります。子宮外妊娠はクラミジア卵管炎の既往など、卵管の働きが低下している状態が原因であることが多いため、卵管の機能低下は今も残っているかもしれません。
両側の卵管を温存した場合も、片側の卵管を切除した場合も、子宮外妊娠は再発のリスクはありますが、体外受精–凍結融解胚盤胞移植を行うことで子宮外妊娠のリスクを低下させることができます。ひなこさんはまだ20代ですし、AMH値も高いので、排卵誘発を適切に用いれば体外受精での妊娠率は高く、1回の採卵でふたり目も授かることもできるかもしれません。
もちろん、まだ年齢的に余裕があるので、もうしばらく人工授精を繰り返すという選択肢もあります。体外受精は人工授精より通院頻度や費用が大幅にアップしますが、妊娠率が高くなり、子宮外妊娠を繰り返すリスクが低下するメリットもありますので、そろそろ検討してみてはいかがでしょうか。
ステップアップをする場合、先生でしたらどのような治療を勧めますか
調節卵巣刺激(排卵誘発)を用いて採卵、体外受精で得られた全ての胚盤胞を凍結保存し、次の周期に胚盤胞移植を行う、という一般的な体外受精の治療が適していると思われます。
この治療のメリットは、高い卵巣予備能(1度に多数の卵子が採卵できる可能性)を活かせることと、子宮外妊娠を繰り返すリスクを低下させられることで、リスクはPCOS女性の調節卵巣刺激はOHSS(卵巣過剰刺激症候群)の発生頻度が一般女性より高いので、注意が必要なことです。
ステップアップをするにあたりやっておいた方がいいことはありますか
特にありませんが、治療を受けるときはベストな体調で臨めるよう、ストレスを減らして規則正しい生活を送ることをお勧めします。
それよりもむしろひなこさんにやっていただきたいのは、「担当の先生と、じっくり今後について話し合うこと」です。7回目の人工授精でうまくいかなかったことを踏まえて、担当の先生はどんな治療が最適と考えているのかを聞いて、それを踏まえてご夫婦でよく話し合う機会が必要だと感じました。