今後の方針の相談

乳がん治療を中断し、妊娠を目指しています。時間を有効に使うには?

セント・ルカ産婦人科 宇津宮 隆史 先生 熊本大学医学部卒業。1988 年九州大学生体防御医学研究所講師、1989 年大分県立病院がんセンター第二婦人科部長を経て、1992 年セント・ルカ産婦人科開院。国内でいち早く不妊治療に取り組んだパイオニアの一人。開院以来、妊娠数は9,300 件を超える。
相談者 : さび猫さん(39歳)良好胚を何度移植してもうまくいかず、人工授精をすすめられましたが、体外受精のほうが妊娠率が良いのではないでしょうか。また、毎回ホルモン補充周期で内膜9mm まで厚くなりますが、着床不良因子を調べなくてよいのか疑問です。PGT-Aについても検討したほうがよいでしょうか。約2年の乳がん治療を中断しての不妊治療なので、期間は2年と考えています。それで成功しなければ乳がん治療の再開を考えています。残された時間を有効に使いたいので、よろしくお願いします。

乳がん治療を中断しての不妊治療中とのこと。さび猫さんのデータで気になる点はありますか?

宇津宮先生●もっとも気になる点は、化学療法は通常なら5年間は継続して行うべきなのですが、さび猫さんは2年間だけ行って不妊治療を再開しているという点です。そして、女性ホルモンのエストロゲン(E2)が増加することで悪化するホルモン感受性の乳がんの患者さんに、アンタゴニスト法を行っているというのも疑問です。
 胚盤胞4個と初期胚7個を凍結できているということは受精卵10個以上、卵胞は20〜30個できていると推測されるので、E2 の数値は2000pg/ml程度まで高くなっているはずです。女性ホルモンの数値が高くなると乳がん悪化のリスクも高まりますから、通常ならできるだけホルモン値を上げずに卵胞を育てるレトロゾール法(エストロゲン値を上げずに採卵数が増やせる方法)という治療法を選択するべきなのです。短い治療期間で、早く結果を出したいという方針からのアンタゴニスト法だったのかもしれませんが、がんの悪化というリスクを高めないためにはE2 は200pg/ml以下に抑えることが大前提です。

次回も成功できなければ人工授精を試すことをすすめられているようです。

宇津宮先生●人工授精は約8%、体外受精は約30%という妊娠率から見ても、人工授精を試すことにはあまり意味はないでしょう。また、子宮卵管造影検査やヒューナーテストなど一般的に行うべき検査をせず、結果が出ない理由を解決しないまま同じ方法を何度も繰り返し行っているという印象さえ感じますから、今の主治医と治療方針を話し合うことよりも、がん患者さんときちんと向き合えるクリニックに転院することが最善ではないでしょうか。

がん患者さんが不妊治療を受ける際のアドバイスをお願いします。

宇津宮先生●乳がん治療が不完全なまま不妊治療を行っているのは年齢的な焦りもあってのことだと思いますが、命にかかわることなのだから、絶対に優先すべきはがん治療です。
 もし私が主治医であれば、今のうちに1〜2回採卵して受精卵を凍結し、1回目の化学療法が終われば着床前胚染色体異数性検査(PGT ‒A)をした受精卵を移植するという方法を提案します。最善のがん治療をしたうえでリスク回避できる不妊治療を行うべきということを忘れないでくださいね。
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不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。