卵子の質や子宮内膜を改善する方法から移植法の選択 まで、とくに 40 歳前後の方から切実な質問が多く寄せ られた、奥先生の質問会。参加者の皆さんへの個別の 回答はもちろん、同じような悩みを抱える方の参考に なるように、さまざまな視点の解決策をわかりやすく 教えていただきました。
P(4 黄体ホルモン)が上がりにくい理由について
司会● P4(黄体ホルモン)の数値が上がりにくいのはなぜでしょうか。
奥先生● 黄体ホルモンのお薬のなかでも内服薬、注射薬、腟坐薬のどれを使われているかによって、P4の血中濃度は違ってきます。
たとえば、当院は移植のための黄体ホルモン補充には、内服薬(ルトラールⓇ)と注射薬( プロゲストンⓇ デポー 125 ml ) を 使用しています。この場合は黄体ホルモンとしての効果はきちんとあっても、 P4の血中濃度は上がりません。通常は1 ng/ml未満の値です。
また、妊娠判定後の着床を維持するための黄体ホルモン補充には、坐薬を使用しています。この場合は P4の血中濃度が上がります( 基準値は5 ng /ml以上や9ng/ml以上との報告もあります)。坐薬は子宮にダイレクトに吸収されやすいため、 P4の子宮局所の濃度は血中濃度よりもかなり高くなっているはずですが、これを調べる方法はありません。
司会●黄体ホルモン補充をして P4の数値が上がらなくても大丈夫でしょうか。
奥先生●大切なのは血中濃度よりも「子宮局所の濃度」です。最近は「 P4の血中濃度と妊娠率(妊娠の予後)は相関関係がない」という意見が大半を占めています。また、お薬を使う時間や検査する時間によっても血中濃度は変わります。 P4の数値をあまり気にされることはないと思います。
子宮内膜を厚くする 方法について
司会●子宮内膜を厚くする方法はありますか。
奥先生●もしも卵胞発育が早くなり、月経周期が短くなってい るようでしたら、子宮内膜は薄くなりやすいと思います。このよ うな方は黄体ホルモンの内服薬、貼り薬、塗り薬などを使い、 内膜を厚くするホルモン補充周期の移植がいいと思います。
それでも子宮内膜が厚くなりにくい方には、補助薬を使 うこともあります。一つは、男性の勃起障害に使われるお 薬(バイアグラⓇ・シアリスⓇ)を腟に入れる方法です。子 宮内にダイレクトに吸収されて血流を良くし、内膜を厚く する作用があります。小児用の解熱剤(バファリンⓇ・バ イアスピリンⓇ)にも同じ効果があります。
また、子宮内膜が直接厚くなるわけではありませんが、 抗酸化作用のあるビタミンEや、プラセンタ(ラエンネッ クⓇ )などのサプリメントで、子宮内の着床環境を整える 方法もあります。
司会●ホルモン補充周期での移植が第一選択ですね。
奥先生●この方は排卵周期が短くなり、自然排卵で子宮内 膜が薄くなっていると推測します。自然周期よりもホルモ ン補充周期の凍結融解胚移植がいいでしょう。とくに 40 歳以上になると胚の発育が遅くなります。ホルモン補充周 期でしたら、着床の窓が開く時期をコントロールできます ので、ゆっくり育つ胚も着床しやすくなります。40 歳以上 の方は、ホルモン補充周期で移植されるほうが妊娠率は圧 倒的に高くなります。
3日目凍結胚と胚盤胞 どちらがいいの?
司会●なぜ胚盤胞にならないのでしょうか。
奥先生●胚盤胞になりにくい一番の原因は年齢です。39 歳の方の染色体異常の割合は 70 〜 80% とされています ので、年齢とともに胚盤胞になりにくくなっていると考 えられます。
司会●3日目凍結胚と胚盤胞どちらがいいのでしょうか。
奥先生● 私の治療方針では「妊娠が成立した治療=正 しい治療」と考えています。この方は3日目凍結胚で 妊娠されていますので、胚盤胞よりも3日目凍結胚が 合っているのではないでしょうか。治療法は変えない ほうがいいと思います。
たとえば、正常な卵子が採れた場合、分割胚から胚 盤胞までの培養環境で一番良いのは、分割胚を子宮内 に戻した後、卵管の中で胚盤胞に成長することです。 その次に良いのは体外培養です。その反対に一番好ま しくないのは、分割胚が子宮にとどまり、成長が止まっ てしまうことです。
また、40 歳前後の方の受精卵は、体外培養のストレ スに弱いともいわれています。その意味でも、体外で 胚盤胞になりにくい胚は、子宮に早く戻してあげるこ とで、体外培養よりも良好な環境で胚盤胞に成長し、 着床する可能性があります。あまり胚盤胞にこだわる ことはないと思います。