「脳と子宮はつながっている」といわれ、月経や排卵、妊娠の成立には脳、卵巣、子宮と、3つ の器官をつなぐ女性ホルモンが大きくかかわっています。では女性ホルモンにうまく働いてもら うためには、どんなことに気をつければいいのでしょうか? うめだファティリティークリニッ クの山下能毅先生に教えていただきました。
排卵や妊娠の成立に女性ホルモンが活躍
女性の体には月経期・卵胞期・排卵期・黄体期という4つの周期があります。このサイクルには脳と卵巣、子宮の3つの器官がかかわり、その連携を支えているのが女性ホルモンです。
脳の視床下部からホルモンの司令塔である性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH) が分泌されると、 下垂体から卵胞の成長をうながす卵胞刺激ホルモン(FSH)が分泌され、卵巣で卵胞が成長します。大きくなった卵胞からエストロゲン(卵胞ホルモン)が分泌され、子宮内膜を厚くします。エストロゲンが十分に分泌されると、その情報が下垂体に伝わり、下垂体から黄体化ホルモン(LH)が分泌されて排卵が起こります。そして、排卵後に分泌されるプロゲステロン( 黄体ホルモン)によって、受精卵が着床しやすい子宮内膜に整えます。妊娠が成立しない時は子宮内膜がはがれ、月経として体外に出されます。こうして毎月、妊娠のための準備とリセットを繰り返しています。
ホルモン分泌が乱れると不妊症につながる症状も
女性ホルモンの状態は思春期、性成熟期、更年期などのライフステージによって大きく変化します。なかでも 20 〜 45 歳の性成熟期の女性はエストロゲンの分泌がもっとも盛んな時期ですが、社会進出などで生活環境の変化やストレスにさらされがちです。生命の維持に大きくかかわっている脳の視床下部や下垂体はストレスにとても弱く、女性ホルモンの分泌を低下させて不調を招いたり、無月経や排卵障害など不妊症の原因になることがあります。
たとえば、月経困難症(機能性・器質性)は月経前や月経中に下腹痛などの症状があり、2 〜 10 %女性の Q O L (生活の質)を低下させることがわかっています。一般的に生理痛とよばれる「機能性月経困難症」は黄体期のプロゲステロンの減少により、プロスタグランジンという物質を発生させ、子宮を収縮させて痛みを起こします。治療は低用量ピルで排卵を止め、プロゲステロンを減少させずにプロスタグランジンを抑える方法が有効です。赤ちゃんを希望される方のなかには、ピルの服用を心配する方もいます。ピルは一時的に卵巣を休ませるためのもので、卵巣機能を低下させることはありません。
「器質性月経困難症」は子宮内膜症、子宮線筋症、子宮筋腫などが原因で起こります。とくに子宮内膜症は20〜 30 代の女性の約 10 %にみられる疾患で、近年、女性の出産回数が減り、月経回数が増えることでかかりやすい現代病です。激しい痛みだけでなく、卵巣腫瘍や不妊症などが認められることもあり、その場合の治療の優先順位はライフステージによって変わります。赤ちゃんを希望される方は、子宮内膜症の治療よりも体外受精を視野に入れた不妊治療を優先します。卵巣腫瘍の手術は卵巣機能を低下させますし、低用量ピルは痛みを改善できても、妊孕能を改善することはできないからです。また、子宮内膜症の治療前に不妊治療した人と、治療後に不妊治療をした人では、妊娠率はほぼ変わりません。
プレコンセプションケアで妊娠前に不妊を予防
また、極端なやせや肥満でも女性ホルモンの分泌が乱れやすくなり、不妊症や流産の割合が高くなります。妊娠に適した B M I ( 体格指数)は 20〜 24 で、18・ 5 未満を「やせ型」、25 以上を「肥満型」としています。やせ型の人は女性ホルモンが低下し、無月経になりやすく、そもそも妊娠がむずかしくなります。仮に妊娠しても妊娠前や妊娠中の低栄養状態によって、低体重で赤ちゃんが生まれたり、生活習慣病の予備軍になってしまう可能性もあります。一方で、肥満型の人は女性ホルモンの分泌が体重に対して追いつかなくなり、過体重の赤ちゃんが生まれたり、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病のリスクにさらされやすくなります。
女性ホルモンをうまく働かせるためには、妊娠前から適度な体重と体脂肪率を維持することも大切です。近年、注目されている「プレコンセプションケア」は、将来の妊娠に備えてパートナーとともに健康を維持し、不妊症を予防する考え方です。当院では次のことを提案しています。
・栄養バランスのとれた食事をする
・抗酸化作用のあるビタミン などを多く含む食品をとる
・禁煙する
・良質な睡眠を十分とる
・適度に運動する
・体を冷やさない
・糖質の摂りすぎに気をつける
・ストレスとうまく付き合う
やせ型や肥満型の方が妊娠後に体質改善に取り組んでも、手遅れになることも少なくありません。いますぐ赤ちゃんを希望される方はもちろん、そうでない方も妊娠する前から妊娠や出産の正しい知識をもって、いつでも赤ちゃんを迎えられる体づくりを心がけてください。