転院のタイミングと失敗しない病院選びのコツは?

転院するタイミングはいつがベストなのでしょうか。

ス テップアップ前、それとも時期に関係なく、自分がしたい と思ったらいつでも決めていいのでしょうか。

仙台ART クリニックの吉田仁秋先生にお話を伺いました。

 

吉田 仁秋 先生 獨協医科大学卒業。東北大学医学部産 婦人科学教室入局、不妊・体外受精チー ム研究室へ。米国マイアミ大学留学後、 竹田綜合病院産婦人科部長、東北公済 病院医長を経て、吉田レディースクリニック を開設。2016年1月に「仙台ARTクリ ニック」として移転・リニューアルオープン。

一般的に人工授精はどのくらいの 妊娠率なのでしょうか?

患者さんの年齢にもよりますが、一般的 に人工授精(AIH)の妊娠率は5~ 10 % 程度といわれています。

通常、 34 歳までなら6回、 35 歳以上の 方だと3回実施して妊娠しなければ、次 のステップとして体外受精を考えるよう になります。

人工授精で妊娠する人の6~7割は3 回以内、6回までで9割ほど。つまり、そ れ以上実施しても妊娠率は低く、 10 回、 20 回と回数が多ければ多いほどうまくいく ということではありません。

ヤマさんは 35 歳で5回目ですから、そろ そろステップアップを考える時期。男性不 妊もあるようなので、担当医の先生がおっ しゃるように早めに次の治療を考えたほ うがいいと思います。

PCOSだと妊娠しづらく なってしまうのですか?

多囊胞性卵巣症候群(PCOS)とは卵巣の中に小さな卵胞がたくさんできてし まう状態のことです。卵胞が育ちにくかっ たり、排卵しづらくなって不妊の原因に なることも。PCOSは「月経異常」や「男 性ホルモン高値」など、いくつか診断基 準があるので、当てはまるような場合は それに合わせた治療をしていきます。排 卵誘発剤などの使用で正常な排卵が起こ るようになれば、一般不妊治療での妊娠 も可能でしょう。

ただ、PCOSの方は排卵誘発をすると どうしても卵巣過剰刺激症候群(OHSS) のリスクが高まってしまいます。それを回 避するために当院では、卵胞を未成熟の状 態で採卵し、体外で培養・成熟させて(未 成熟卵体外成熟:IVM)、体外受精や顕微授精を行う治療も実施しています。

転院のベストなタイミングが あれば教えてください

転院のタイミングは患者さんによって 異なると思います。ある程度治療をして も結果が出なくて「どうしようかな」と 悩んでいる時が一つのポイントになるのでは。何年、何回治療したからとかではな く、一番重要なのはご夫婦の気持ちではな いでしょうか。

ヤマさんの場合、今治療を受けている クリニックでこのままステップアップす るか、転院して気持ちを変えて人工授精 にあと1、2回トライするか、僕はどちら でもよろしいと思います。お二人が納得 する形で決めていただくことが大切だと 思いますね。ただ、先のことまで考える なら、体外受精も実施している施設を選 んだほうがいいでしょう。

失敗しない 転院先選びのコツは?

ご主人が教えてくれた病院は「インター ネットで検索してもほとんど情報が出てこ なくて不安」ということですが、できれば 転院する前にしっかり情報を調べたほうが いいと思います。今はホームページ等で、 施設の治療方針や雰囲気がわかりますよね。

情報の中でまずチェックしていただき たいポイントは実施している症例数や治 療成績。体外受精なら少なくても年間 200 件以上の症例を扱っている施設だ と安心できるのではないでしょうか。や はりある程度の症例数を実施していない と治療全体のクオリティが落ちて、妊娠 率も下がってきてしまうものです。また、 さまざまなケースを扱っていれば、どんな 状況の患者さんがいらしてもベストな治療法をご提案できます。

もう一つは医師の経歴部分を確認して ください。「日本生殖医学会認定生殖医療 専門医」と記載されているかどうか。専 門医になるためには時間がかかりますか ら、この資格を取得していれば生殖医療 に熟練しているということになります。

転院して妊娠されて、結果的によかった という方も多くいらっしゃいますが、デ メリットもゼロではありません。新しい 先生とは一から信頼関係を築いていくこ とになります。先生やスタッフとの相性、 また、治療以外では施設の雰囲気や待ち 時間などが自分の望むものであるかなど、 初めての場所ですから自分に合わなかっ たということもあります。

「転院先に不安がある」ということです が、無料のセミナー等が行われている病 院でしたら、一度話を聞きに行かれてみ ては?   不妊治療は時間的にも経済的に もある程度負担がかかってしまう治療で す。ご夫婦でよく相談のうえ、情報をしっ かり調べて後悔のない形で転院を考えて いただきたいですね。

メッセージ

治療方針が自分に合っているというのは もちろんですが、それに加えて重要な のは転院先の施設が「自分が安心して 過ごせる場所かどうか」ということだと 思います。いくら人気の施設でも「5 分の診察で終わり」では、納得のいく 形で進められません。当院では、通常 の診察のほか、疑問があれば看護師や 胚培養士などに専門的な話を聞けるよ うな体制を整えています。スタッフの数 を十分揃えているか、患者さんの不安 を解消できるような機 会を作っているかという のも、転院先を選ぶ大 切なポイントになってく るかと思います。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。本サイトの全ての記事は医師監修です。