Q 卵子があまり育ちません。 卵子の質が悪いのでしょうか?

ドクターアドバイス

●刺激法が合っていない可能性もあるので、まずは方法を変えてみては。
●乏精子症の度合いによっては、合間に人工授精を試されるのもひとつ。
山下 能毅 先生 大阪医科大学医学部を卒業後、北摂総合病院産婦人科部長・大 阪医科大学産婦人科病棟医長、医局長、講師として、不妊治療や 腹腔鏡手術に積極的に取り組む。2014年、宮崎レディースクリニッ クの副院長に就任し、2017年4月、同院の院長に。各患者様の 背景に配慮した“オーダーメイド治療”をめざす。日本産科婦人科学 会認定医、生殖医療専門医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認 定医、臨床遺伝専門医。趣味はゴルフ・映画鑑賞・ピアノ。女性、 男性ともに利用しやすいクリニックをめざし、「うめだファティリティーク リニック」としてスタートして、はや5カ月。毎週木曜と毎月第1土曜 に男性不妊外来を開設し、MD-TESEに対応しています。「ご夫婦 はもちろん、1人で来院される男性が増えました」と山下先生。
みゅうさん(27歳)からの相談 Q.夫の乏精子症が発覚し、アンタゴニスト法で顕微授精を行い ました。先生に「若いから、2人目もこの採卵でいけるかも」 と言われ、私も期待していました。しかし、実際は採卵15 個、そのうち成熟卵は7個。顕微授精では6個受精、残りの 1個も受精しました。ほかは未成熟な卵子でした。そして、 分割が遅く黒くなってしまい、胚盤胞になったのは5日目の4 CC1つだけでした。先生にがっかりしたと言われ、私も落 ち込んでいます。卵子の質が悪い体質なのでしょうか。先 生も次の刺激法のアレンジは多少すると言ってくださってい ますが悩んでおられました。卵子の質が悪い人は何度やって も結果同じなのでしょうか。まだ望みはありますか?

みゅうさんは卵子の質に問題があるの でしょうか。

山下先生 採卵した 15 個のうち成熟卵は7 個で、結果的に顕微授精できなかったのだと 思います。確率としてはかなり低いですね。 たとえば、この方が 40 歳ぐらいであればアン チエイジングのサプリメントなどを併用し て、卵子のクオリティを上げることも検討す るかもしれませんが、まだ 27 歳とお若いです。 早発閉経でもないかぎり、卵子の質について 語るのは早い気がします。実際のAMHの値 がわからないのですが、卵巣刺激法が合って いない可能性も考えられます。まずは方法を 変えてみてはいかがでしょうか。

どのような卵巣刺激法がいいのでしょうか。

山下先生 方法としては3つあります。ひ とつがロング法です。月経の約1週間前か ら点鼻薬+注射剤で自然排卵を抑制しなが ら卵子をゆっくり成熟させて採卵する方法 です。比較的年齢が若い方が対象で、複数 個の卵子が均一に育ちやすいというメリッ トがあります。

もうひとつはアンタゴニスト法のアレン ジです。アンタゴニスト法は、月経3日目 から注射剤+アンタゴニスト製剤で自然排 卵を抑制しながら卵子を育てる方法です。 従来よりも1〜2日長く刺激をして採卵を 遅らせることで、前回よりも成熟した卵子 を採取できる可能性があります。

  さらに、レトロゾールやアロマターゼ阻害 剤と注射剤を併用しながら、マイルドに刺激 して成熟した卵子を確実に採卵する方法もあ ります。 15 個といった複数個の卵子を一度に 採卵するのではなく、採卵数を減らす代わり に卵子の成熟度を上げることができます。
  また、そのほかの方法もあります。アンタ ゴニストでの刺激周期中に血液検査をする と、まれにLH(黄体形成ホルモン)が基準 値よりも極度に低い方がいます。このような方は卵子の成熟度も低い可能性があります。 現在はLHを補う薬がないのですが、当院で はLHと同様の成分をもつHCG注射を希釈 して投与し、卵子の成熟度を上げる高度な治 療も行っています。この方の詳しいデータが わかりませんが、刺激周期中にLH、FSHエストロゲンの値を調べて補充していくのも ひとつの方法かもしれません。

最後にアドバイスをお願いします。

山下先生 いきなり卵子の質を変えるのは むずかしいので、まずは先ほどお話しした 刺激法を試されるといいと思います。この 方は月経周期 28 日型で身長153㎝・体重41 ㎏でBMIは高くありませんから、卵子 の質にも影響を及ぼすPCOS(多嚢胞性 卵巣症候群)の可能性は低いでしょう。む しろ痩せすぎが気になりますので、甲状腺 ホルモンの検査を受けられてもいいかもし れません。それで問題がなければ、当院で はロング法をおすすめします。

あとはご主人の乏精子症の度合いにより ますが、場合によっては体外受精だけでな く、人工授精を受けることができます。毎 月の体外受精は大変だと思いますので、体 外受精にこだわりすぎず、合間に試してみ るものひとつの選択です。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

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