初めての人もこれを読めば安心!徳岡先生の不妊治療AtoZ
初めて不妊治療をしようとする人は、どんな検査を受けるのか、どん な治療をするのか、不安がいっぱいだと思います。
事前に知識を少し もっていれば、先生の話もスムーズに入ってきて治療を進めやすくな るでしょう。
そこでとくおかレディースクリニックの徳岡晋先生に不 妊治療のAtoZを教えていただきます。
Lesson3 高度不妊治療(ART)について
高度不妊治療のまとめ
人工授精を3~6回試したら体外受精へステップアップ。
年齢が高くなればなるほど体外受精での妊娠が多い。
体外受精・顕微授精は治療期間を短くするための方法と捉えて。
体外受精・顕微授精とは
前回は一般不妊治療についてお話ししました。今回は高度不妊治療と呼ばれる体外受精・顕微授精についてご説明していきたいと思います。
体外受精とは卵巣から卵子を体外に取り出して、培養液の 中で精子と受精させ、培養して受精卵を子宮に戻す技術です。
治療の流れは次のようになります。
①排卵誘発
自然周期では育ってくる卵胞は 1 個ですが、多くの場合、飲み薬や注射剤を使って複数の卵胞を育てていきます。
②採卵
採卵は経腟プローブという超音波で卵胞を確認しながら細い針を刺して行います。
③体外・顕微授精
体外受精は卵子と精子を同じシャーレの中に入れ、受精させる方法です。精子の数が少ない・運動性が悪いなどの場合は体外受精では受精しないことがあり、その場合は顕微授精を行います。顕微授精は、細いガラス製の針を使って精子 1 個を卵子の中に入れて受精させる方法です。
④受精卵の培養
受精卵を培養液の中に入れ、女性の体内と同じ環境に保たれたインキュベーターの中で培養します。
⑤胚移植
受精卵を子宮に戻すことを胚移植と呼びます。胚移植には受精後 2 ~ 3 日で戻す初期胚移植と、受精後 5 ~ 6 日培養して胚盤胞まで成長した胚を戻す胚盤胞移植があります。また、採卵した周期に戻す新鮮胚移植と、一度胚を凍結し別の周期に戻す凍結融解胚移植があります。
排卵誘発の方法や体外受精・顕微授精の選択、移植の方法 などは、女性の年齢やAMHの値、治療歴、男性の精子の状態などいろいろな要素が関わります、患者さん一人ひとり違うため、医師と相談しながら決めていくことになります。
年齢が高くなるほど 体外受精で妊娠する人が多い
体外受精・顕微授精を行うケースで一番多いのが、一般不妊治療からのステップアップです。基本検査で特に問題がなかった場合は、タイミング法から始め、人工授精へと進みますが、人工授精を 3 ~ 6 回行っても結果が出ない場合は体外受精へとステップアップしていきます。
ほかには卵管造影検査で片側の卵管が詰まっていることが わかった場合や、精液検査で乏精子症・精子無力症などがわかった場合は、まず人工授精を試してみて、それでうまくいかなければ早い段階で体外受精に進むケースが多いです。
このように高度不妊治療に進む理由はいろいろありますが、 一番大きい因子は年齢です。当院のデータで妊娠に至った治療法をまとめたものがあります(図 1 )。
全体ではタイミング療法が 21 ・ 8 %、人工授精が 18 ・ 9 %、体外受精・顕微授精は 59 ・ 3 %ですが、 40 歳以上の方のみを集計すると体外受精・顕微授精が 74 ・ 1 %と大きく増えています。
順序を踏んで治療を進めていくことは非常に大切ではあり ますが、女性の年齢が高い場合には体外受精で妊娠するケースが圧倒的に多いのが現状です。また、体外受精での妊娠率
は年齢が若いほど高くなっていることがわかります(図 2 )。
年齢がどんどん上がっていく前に体外受精を始めることが、治療期間を短くすることにつながっているといえるでしょう。
体外受精と顕微授精、 同時に行うスプリット法
精子と卵子を受精させる方法には体外受精と顕微授精がありますが、どちらを選択するかは精子の状態によって変わります。精子が良好な場合は、体外受精、精子の数が極端に少ない・運動率が低い・奇形率が高いなど精子が不良な場合は顕微授精になります。
精子が良好でも体外受精で受精しないこともあります。日 本産科婦人科学会のガイドラインでは、体外受精でうまくいかなかった場合に、顕微授精を行うことになっています。つまり、精子の状態が良くても受精しない場合や異常受精になる場合もあります。だからといって、受精率だけで顕微授精の方がより優れているともいい切れません。事実、卵子に対してよりストレスをかけていることも予想されます。要は千差万別である患者さん一組一組に対して良い治療法を熟慮し、選択していくことが大切です。
当院は体外受精・顕微授精の患者さん方は、すべて院長が担当しており、排卵誘発に始まり、採卵手術から胚の選択、そして胚移植まで、すべて一人で実施しております。したがって、スプリット法といって同時に体外と顕微を両方行う方法も選択します。たとえば卵子が5個採れたとすると、2個を体外受精、3個を顕微授精に割り当てるということです。
これにより、1回目の採卵において、すべて未受精に終わるということを極力避けたいのです。大切なことは、医師、体外受精コーディネーター、不妊カウンセラー等とよく治療について相談すること、施設の考え方や方針、胚培養士の技術力、つまりはそのクリニックの総合力に納得して進んでいくことだと思います。
またレスキュー法といって、体外受精をしてみて、受精し ていなかったら顕微授精をやるという方法が数年前に報告されましたが、ほとんど成功しないのが実情でした。おそらく卵子の受精期間が終わっているためではないかと思います。それなら最初から体外と顕微を同時に進めたほうが効率がいいだろうということで、スプリット法を取り入れている施設が多くなっています。
医療の手が多く入る高度不妊治療に進むことを躊躇する人 もいるかもしれません。しかし、不妊治療に限らず医療がどんどん進歩するなか、体外受精や顕微授精も今や特殊な治療ではありません。不妊治療において、皆様の願いを一日でも早く叶えるための、そして産まれいづる新しい生命のための重要な一つの選択技として、一歩踏み出してもらえたらと思います。