不妊治療をスタートして気になるのが、これか らの治療法とその成功率。
不妊の原因や年齢に よっても治療法の選択は異なってくると聞きま す。
そこで「タイミング療法」「人工授精」「体 外受精」「顕微授精」それぞれの治療法と妊娠率 について、英ウィメンズクリニックの岡本恵理 先生にお話を伺いました。
●妊治療のそれぞれの妊娠率について教えてください。
タイミング療法については調べるのが難しく、当院にもデータがありません。
一般的には不妊症でない方が性交渉をもたれた場合、1回の排卵あたりの妊娠率は 10 〜 25 %とかなり幅があります。
ちなみに、201 5 年1〜3月に当 院で初診された865名(不妊症以外の婦人科疾患の方も含む)の方のデータでは、その後2年間で妊娠された症例310名のうち、体外受精で179名( 20 ・ 7 %)、人工授精で 38 名( 4.4 %)、タイミング療法で 93 名( 10 ・ 8 %)です。
また、当院の累積妊娠率は人工授精 が 22 ・ 3 %、体外受精が 66 %、顕微授精が 60 %。
なかには体外受精、顕微授精でも妊娠できない方もいらっしゃいますが、この 2 つの方法による妊娠率が圧倒的に高いことがわかります。
「人工授精」「体外受精」「顕微授精」それぞれの治療法について教えてください。
「人工授精」は、排卵日前後に射精・濃縮洗浄した精液を細い管を用いて子宮内に注入する方法です。
性交渉では腟内に射精された精子が子宮に自力で行き着く必要があり、そこまでたどり着ける精子の数は限られてきますが、人工授精ではすべての精子を子宮の奥深くに届けることができるため、卵管内で卵子と精子がめぐり合う確率は高くなります。
通常は痛みがなく処置後すぐに帰宅できます。乏精子症、精子無力症、性交渉がもてない方、タイミング治療で妊娠できなかった方がおもな適応になります。
「体外受精」はまず卵子を取り出し、 体外で精子との受精を成立させた後、培養器の中で受精卵を培養します。
その後、子宮内に受精卵を移植し、妊娠の成立を期待する治療方法です。
体外での受精、胚の培養には高度な培養技術と設備が必要になり、精子・卵子・受精卵の取り扱いには深い経験と知識が欠かせない高度生殖補助医療技術を駆使した治療です。
おもに卵管性不妊の方、人工授精で妊娠できなかった方、年齢的に時間が限られた方が対象になります。
「顕微授精(ICSI)」は高度生殖医療技術のひとつで、精子を顕微鏡下で観察しながら、卵子の細胞質に細い針を刺して直接注入するものです。
治療内容は体外受精と同じで、違いは培養室で行う授精方法だけです。
重度の乏精子症、精子無力症の方には最初から顕微授精をご提案することもあります。
さらに社会的・医学的な理由で卵子や精子を凍結される場合も、基本的には顕微授精が適応になります。
年齢別の妊娠率に違いがありますか? その理由を教えてください。
日本産科婦人科学会のデータによると、体外受精の妊娠率は 26 〜 33 歳で27 %、 34 歳で 25 %、 38 歳で 20 %、 40 歳で 15 %と年齢が高くなるにつれ5%ずつ減少する傾向にあります。
年齢とともに妊娠率が下がる理由は、いわゆる「卵子の老化」です。
女性は生まれた時にすでに卵子の数が決まっていて、年齢とともに卵子は老化していきます。
最終的に化した卵子は排卵から受精卵になる過程で染色体の不分離が起こり、染色体異常の割合が高くなる傾向にあります。
染色体異常があると受精障害、着床障害、初期流産につながる確率も高くなります。
これから治療をはじめる方へのアドバイスなどをお願いします。
不妊治療についてリサーチし、準備万端で来院される方もいますが、たとえば今なら子宮頸がんの無料クーポンを利用し、そのついでに初診される方もいらっしゃいます。
当院では、はじめてお越しいただいた方に「ああ、こんなに気楽に受診できるんだ」という環境のなかで心を開いてもらい、ご夫婦間のプライベートな相談もしやすい雰囲気づくりを心がけています。
不妊治療は「魔法の治療」ではないですし、成功率がけっして高いわけではありません。
長い時間をかけてコツコツと治療していただくことが大切で、やはり根気が必要です。
また、1カ月でも早く治療を始めるほど成功率は高くなりますから、早いうちに一歩を踏み出すことが大事だと思います。