移植するか採卵するか

不育症検査で凝固因子が判明。

ラスト一年と決め、 採卵方法で悩んでいます。

蔵本 武志 先生 山口県柳井市出身。1979年久留米大学医学部卒業。1985年山 口大学大学院修了。医学博士。1995 年 6月蔵本ウイメンズクリニッ ク開院。開院当時より、体外受精、顕微授精をはじめ、一般不妊治 療や生殖医療の研究を広く行う。山口大学非常勤講師、久留米大学 医学部臨床教授。多忙ななかの癒しはミュージカル鑑賞で、ご家族の ほか、病院スタッフの希望者全員を連れて鑑賞することも。来年は医 院の改築を行う予定。診察室と常勤務医を増やし、患者様をお待たせ する時間を軽減するなど、ますますの施設機能の充実を目指します。
母になりたいさん(43歳)からの相談 Q.体外受精を始めて3年。採卵は自然周期で2回、誘発で1回行いました。4回の移 植で妊娠判定は2度。ただし、どちらも胎嚢が確認できず流産と言われました。8 年前、不妊治療を開始する前の自然妊娠時も同じ結果であったため、不育症の検 査をしたところ、凝固因子の異常と診断されました。治療はやめようと思っていまし たが、原因がはっきりしたので、ラスト1年限定で治療に臨むことにしました。また、 1つでも多くの受精卵をつくりたくて顕微授精に切り替えましたが、採卵方法につい ては、誘発か自然周期か、どちらがベストなのか決めかねています。昨年初めて検 査した時のAMHは3.79ng/mlでした。後悔しないよう、できるだけのことはやり 尽くそうと思っております。何かよいアドバイスをいただけないでしょうか?

凝固因子は不育症?

凝固因子に異常があると診断されましたが、 どのような治療法がありますか?
蔵本先生 不育症の原因の一つでもある凝固 因子の値に異常があれば不妊症(着床不全) の原因になります。
まずはどの凝固因子か調 べたうえで、より適切な治療に臨まれるのが いいでしょう。
当院では 8 種の検査を行っていますが、血 中に「抗カルジオリピン抗体(aCL)」や「ルー プス抗凝固因子(LAC)」などの自己抗体が1 つでも高い数値で検出されると、「抗リン脂 質抗体症候群」を疑います。
その場合は、 12 週間後にもう一度検査し、 2 回とも高ければ ほぼ確定診断となります。
その場合、妊娠が 判明したら低分子ヘパリンの皮下注射が適応 となりますが、これは保険がききます。
併せて、 低用量アスピリン製剤(バファリンⓇまたはバ イアスピリンⓇ)を胚移植周期より 1 日 1 錠服 用しますが、これは妊娠成立後も続けて服用 するのがいいでしょう。
ただし、低用量アス ピリン製剤は保険適用されません。

加齢と染色体異常

ほかに考えられる原因がありますか?
蔵本先生 もう一つの原因という観点では、 患者さんの 43 歳という年齢から、卵子の染色体異常が考えられます。
女性の年齢の上昇と ともに染色体異常の卵子が採れる頻度は増え る傾向にあり、 43 歳では、だいたい 4 個中 3 個(約 75 %前後)は染色体異常の可能性があ るとされています。
染色体異常の卵子は、染色体異常の胚となり、着床しないか、着床し ても多くは流産となります。

誘発方法を変えてみる

たくさんの卵子を確保する誘発か、少ない 数しか採れない自然周期か、どちらの方法が ベストでしょう?
蔵本先生 一般に採卵数が増えると正常な染 色体の卵子を採卵できる確率が増えて、採卵1 回当たりの妊娠率は上昇します。
しかし強 い卵巣刺激がストレスとなり、かえって卵質、 胚質が低下する女性(特に 40 代)がおられることも事実です。
今回、強い刺激(FSH製剤、HMG製剤 を連日300単位投与)で採卵 5 個、うち、4 個が受精したにもかかわらず、胚凍結は 1 個しかできなかったということ。
別の方法と して、注射量を225単位に下げて刺激を行 うかやや低刺激法で卵巣刺激を行うことで、 採卵数は少なくなりますが、質の良い受精卵 ができる場合もあります。

予備能のあるうちに

少ない数しか採卵できなかった場合、次の 採卵までどのくらいの期間をあけたら良いで しょう?
蔵本先生 昨年の検査段階で、卵巣予備能(AMH)は、 3 ・ 79ng /ml とのことですが、卵 巣予備機能は良いと考えます。
ただし、この1 年間で卵巣に残っている卵子数は確実に減 少していると考えられます。
次回は、前回の 卵巣刺激とは少し違うやや低刺激法(クロミ フェンまたは、レトロゾールの内服薬と月経4 ー 5 日目頃よりFSH製剤またはHMG製 剤を150~225単位隔日投与)を行って みられることもいいと思います。
数個の成熟 卵子を採ることを目標とし、 1 ~ 2 個胚凍結 できることを期待します。
この方法でしたら、1 カ月ほど休めば再度の採卵も可能です。
>全記事、不妊治療専門医による医師監修

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