採卵数が少なく、胚盤胞の質も良くない

受精率や胚盤胞の グレードが良くないのは 夫?

それとも私が原因?

男性不妊で顕微授精に臨んだ場合、受精率や胚の状態が 良くないのは卵子と精子、どちらに問題があるのでしょうか。

俵IVFクリニックの俵史子先生に伺いました。

 
俵 史子 先生 浜松医科大学医学部卒業。総合病院勤務医時代より不妊治療に携 わり、2004年愛知県の竹内病院トヨタ不妊センター所長に就任。 2007年、 静岡に俵IVFクリニックを開業。 クリニックの移転で 大忙しだったという先生。不規則な生活が続いて、運動不足とス トレスがたまりがちに。夏休みは大好きなお祭りを見に行ってリ フレッシュ。秋からも全力投球で診察に臨みます。
相談者 まめさん(28歳)からの相談 男性不妊のため、昨年から顕微授精で治療に臨んでいます。 これまで誘発をかけて2回採卵・移植を行いましたが、採卵 数が少なく、受精率や胚盤胞のグレートもあまり良くありま せん。まだ2回の移植だと思われるかもしれませんが、今週 に採卵が始まるので、また卵子の数が少なかったり、「胚盤 胞になっても着床しなかったらどうしよう」とすごく不安で す。AMHの検査はしていませんが、私の卵巣機能が低下し ているのでしょうか。太りぎみや高血圧、クラミジア感染の 過去なども関係ありますか? 胚盤胞の質などは主人の精子 の状態が影響している?

●これまでの治療データ

検査・ 治療歴

昨年から顕微授精に挑戦し、採卵2回・移植2回実施。

1回目:採卵数5 個で1個未成熟、1個変性、3個が成熟、うち2個受精→1個が5日目に 4BBの胚盤胞に。

しかし、凍結し融解した時にダメになる。

2回目:採 卵数7個で1個未成熟、6個が成熟、うち3個受精→2個が5日目に胚盤 胞になり、凍結。

その後、ホルモン補充とステロイドを飲んで移植し、結 果は陰性。

1周期あけて、ホルモン補充とビタミン剤、ステロイド、バイ アスピリンⓇを飲んで2回目の胚盤胞移植をしたが、hCGの値が上がらず。

不妊の原因と なる病名

男性不妊

現在の 治療方針

3回目の採卵を控えている。

精子 データ

精子濃度1000~2500万/ml、奇形率10~30%、運動率10~30% <転院後>精子濃度(濃縮後)1000万/ml、運動率1%

精子所見の急激な悪化もある

ご夫婦ともに 28 歳。男性不妊で顕微授精に 臨まれているそうですが、ご主人の精子の状態はかなり悪いのでしょうか。

俵先生 精子の数については極端に悪いと思いませんが、気になるのは運動率が劇的に落ちていることです。

精子の状態が急に悪化する方は無精子症にまで至ってしまうケースも。

なかには、数百万あったのに翌年にはゼロになってしまったという方もいらっしゃいます。

ご主人は触診やホルモン検査で異常がなかったとのことですが、それはいつのことでしょうか。

もし、ずいぶん前に受けられたのでしたら、もう一度、専門外来で詳しい検査をされてみることをおすすめします。

運動率が低い方は奇形率も高くなる傾向が あるので、顕微授精をしても成績が落ちるケースが多いようです。

とにかく再度検査をして原因検索をしていく必要があると思います。

精子の影響で受精卵が良くない?

女性側についてはどうですか。

俵先生 採卵数が少なく、受精率も胚のグレードも良くないとのことですが、刺激をして1、2個というわけではないので、卵巣機能が悪いという印象はありませんね。

ただ 20 代とい う年齢を考えると、もう少し数が採れてもいいのかなとは思います。

受精率や胚の状態について、精子側の影響を受けているかもしれません。

ご主人に精索静脈瘤などの病気があって、それを治療して精子の状態が改善すれば良くなることも考えられます。

また、凍結胚を融解した時に壊れてしまっ たということも心配されていますが、良好胚の場合はそのようなことは少ないので、もしかしたら卵子側の問題である可能性も。

技術的な影響もあるかもしれませんが、それほど気になさることはないと思います。

クラミジアの影響は考えにくい

肥満やクラミジア感染などが影響していることは考えられますか?

俵先生 まめさんは肥満とはいえないと思いますし、血圧の数値は不明ですが、投薬などの治療はされているのでしょうか。

医師が異常はないと判断している範囲なら問題ないでしょう。

また、過去にクラミジアに感染したことがあっても妊娠率が極端に下がるとは限らないので、これらが妊娠の大きな妨げになっているということは考えにくいと思いますね。

AMHは測定しよう

3回目の採卵を控えているということですが、卵巣刺激の方法を見直したほうがいいのでしょうか。

俵先生 これまでの2回はセトロタイドⓇというお薬を使っているので、アンタゴニスト法だと思われます。

年齢が若く、卵巣機能が良すぎる人にロング法などの強い刺激をしてしまうとOHSS(卵巣過剰刺激症候群)のリスクが高まるので、おそらく安全面を考えているのだと思いますね。

そのなかで、注射の量などを調節して工夫されているようです。

妥当な選択なのではないでしょうか。ただ、年齢が若くてもAMH(抗ミュラー 管ホルモン)の値が低い方だったら、ショート法などの高刺激をしてもOHSSのリスクはそれほど高くないと思います。

まめさんはAMHの検査はされてないようですね。

最適な卵巣刺激法を見つけるためにも、一度卵巣の機能を評価してもらってはどうでしょうか。

複数採卵を目指した誘発

こちらのクリニックだったら、次はどのような形で採卵していきますか。

俵先生 アンタゴニスト法でも悪くはないと思いますが、3回目なら次はやり方を変えていきたいですね。

AMHの値が低めならショート法やロング法を。

逆に 10ng/ml 以上など年 齢なりの高い数値ならハイリスクになってしまうので、クロミフェンなどの内服薬+ h MG注射の低刺激でもいいのでは。

このような方は少し弱めの刺激でも卵は複数個育つと思います。

年齢を考えれば、自然周期での採卵という 選択もあるかもしれませんが、男性の精子の状態が良くない場合は難しいと思います。

精子の奇形率が高いということはもちろん、正常な形態であっても「受精できない」「良好胚に育たない」という原因があることも考えられるので、スタート時にある程度卵子の数がないと移植まで到達できないかもしれません。

ですから、複数の卵を採取していくことが必要になってくるのではないでしょうか。

凍結胚移植は正解

移植の方法については?

俵先生 アンタゴニスト法の場合、一般的には新鮮胚移植ではあまり成績は良くないので、この方法を選択するならば、凍結胚移植は正しかったと思います。

ほかの刺激法では新鮮胚移植で条件が良くなることもあるので、その都度検討していくほうがいいと思います。

それから、移植に備えてステロイドやバイ アスピリンⓇなどのお薬を飲んでいらっしゃいますが、これは本当に必要なのかわかりません。

流産予防で処方されたのかもしれませんが、不育症のガイドラインによると、不育症の原因がない方にアスピリンを使っても成績に差がないというデータがあります。

現状では原因ははっきりとわかりませんが、 このような方の場合、治療の条件を変えて良くなる可能性は十分にあるので、精子の状態に注意を払いながら、まだまだ希望を持って治療に臨んでいただきたいですね。

ジネコ注目のスタッフ!

診療部看護師 絹村典子さん 看護師には先生と患者さんの間を取り持つ役目 もあると思っています。診察だけでは患者さんの 不安をすべて取り除くことはできないので、当院 では診察後に必ず看護師がお声をかけるようにし ています。「どうですか? 何か聞き忘れたこと はないですか?」という確認をして、その日の悩 みや不安はその日に解決して帰っていただくよう に心がけています。  患者さまもお一人ずつに性格が異なり、受け入 れられる方がいらっしゃれば、閉じてしまう方もい らっしゃいます。日頃の様子をまめに観察して、お 一人おひとり対応を変えていくようにしています。  このように私たち看護師は院長の方針に基づい て一丸となってフォローできる体制をとってお り、日々新しい知識も勉強しているので、安心し て治療に臨んでいただきたいと思います。
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