排卵後の黄体補充で ルトラール®5日間の処方は 短すぎませんか?
波多野 久昭 先生 日本医科大学卒業。ハンブルク大学産婦人科学教室留学後、日本医科 大学付属病院産婦人科学教室講師、飯田市立病院産科科長を経て、 2005年ノア・ウィメンズクリニックを開院。A型・やぎ座。同クリニックでは、 9月から、胚移植の際のご主人の立ち会いをスタート。治療でどんなことをす るのかご主人にも知っていただくいい機会になっているそう。体験された方 からは「手を握ってもらって気持ちが楽になった(奥様)」「一緒に体験でき てよかった(ご主人)」と感想をいただいています。
サルサルさん(32歳)からの相談 Q. 4年間、クロミッド®+プレドニン®+デュファストン®によるタイミング治療、半年間ゴナー ルエフ®によるタイミング治療をし、その後の半年間は体調不良で治療を中断。1カ月 前より治療を再開し、現在はセロフェン®での排卵誘発でタイミング治療しています。タイミング後、高温期2日目に受診し、エコーにて排卵を確認しましたが、体温の上昇が緩 やかだったためルトラール®5日分を処方されました。高温期2日目の夜から7日目朝ま での服用となりますが、このような処方をすることがあるのでしょうか? 以前の病院で はデュファストン®を10日や12日という処方だったので、不安になってしまいました。 AMH以外の検査はしており、子宮や卵管に問題はなく、多嚢胞性卵巣と診断されてい ます。今後は数周期タイミングを行った後、状況に応じてステップアップを考えたほうが いいと言われています。
黄体ホルモン補充
はじめに、デュファストン ® とルトラール ®はどのような薬か教えていただけますか?
波多野先生 どちらも黄体ホルモンを補充して、受精卵の着床をよくする目的で使う薬です。
血中の黄体ホルモンを調べ、 10ng / mL 以 下の場合に補充するのですが、毎日採血するわけにはいかないので、基礎体温で判断することが多いです。
高温相と低温相の温度差が少ない場合や、高温相が 10 日以上続かず短い、途中で体温が下がるなど、体温表から黄体機能不全が疑われる場合に処方されます。
黄体ホルモンが十分に出ている人に黄体ホルモンを補充しても害になることはないので、安心のために使うこともあります。
黄体ホルモンの服用
以前の病院ではデュファストン ® を 12 日間だったので、ルトラール ®5日分というのは短いのでは、というご質問です。
波多野先生 一般的には、サルサルさんも前院でそうだったように、 10 ~ 12 日間使うことが多いのですが、何日間の服用が最もいいのかというエビデンスはないのです。
どういう処方が正しいかがわかっていないので、何がいけないということもありません。
逆に、あまり長く補充していると、妊娠していないのに生理が遅れたり、来なかったりすることもあるので、普通は高温期に合わせて 10 ~ 12 日の処方をすることが多いのです。
サルサルさんは排卵後、体温が一気に上が るのではなく、階段状に上がるか、あまり温度差がないということで、黄体機能が十分ではないと判断されたのでしょう。
体温の上がり方が緩やかなので、上がりきるまでという目的で処方されたのかもしれませんね。
間違った処方ということはないので、先生のご指示通りで大丈夫だと思います。
ステップアップの意味
サルサルさんは4年半以上、タイミング療法で治療されているようですが。
波多野先生 4年半はかなり長いですね。ずっとタイミング療法をしていらっしゃるので、少し早めにステップアップしたほうがいいかもしれません。
転院されて、また一から始めようというお考えもあるかもしれませんが、私ならタイミング療法を1~2回やってみて妊娠しなければ、すぐに人工授精をすすめます。
ご主人の精子の状態もよくて、しっかり排卵確認しているのに4~5回人工授精を試しても結果が出ない場合は、体外受精を考えられてもいいと思います。
検査で異常は発見されていなくても、やはりどこかに問題がある可能性があり、それが体外受精によって明らかになることがあるからです。
多嚢胞性卵巣の方は、卵子の質が悪いこと もありますが、体外受精をしてみれば質がわかり、いい卵子を選んで移植することができます。
ほかにも、受精がうまくいかない、受精はするけれど着床がうまくいかないなど、体外受精をすることで新しい問題がわかるかもしれません。
同じ治療をくり返すより、早めのステップアップをおすすめします。