卵子の発育が悪いのが心配です。

卵子が育つまでに時間がかかります。どう治療していけばいい?

神谷 博文 先生 札幌医科大学卒業。同大学産婦人科学講座、第一病理学講座に入局 後、斗南病院にて産婦人科科長を10年間務める。1998年、神谷レディー スクリニックを開業。昨年1月にクリニックを移転し、電子カルテの導入や 施設・設備の充実、スタッフの増員を図った。「2014年はJISART(日本 生殖補助医療標準化機関)のシンポジウム、A-PART(不妊・生殖補助 医療国際学会)の学会が札幌で開催されます。大会会長としてプログラム などの作成で忙しくなりそうです」と先生。
なおさん(46歳)からの相談 Q. 去年から何度か体外受精での不妊治療をしています。胚移植までいったことはあるので すが、卵子の変形や空胞などで妊娠には至りませんでした。今年5月からはHMG注射 を打ちながら、セロフェンⓇとATPを服用しています。 現在、生理から17日目ですが、まだ卵胞が小さいとのことで、採卵は1週間後あたりに なりそうです。年齢的なものもあり、卵子の質も良くないでしょうし、卵子の育ちも遅い ようです。育つのに時間がかかる卵子はあまり質が良くないのでしょうか。また、採卵後 すぐに胚移植ができたとしても、卵子を育てるのに時間がかかっていると、子宮内膜の 状態があまり良くなく妊娠しにくいと耳にしたのですが、そうなのでしょうか? その場 合、凍結胚にして子宮の状態に合わせて移植したほうが着床率も上がりますか?

FSHと流産の関係

なおさんのように、卵子が育つまでに時間がかかり、採卵できても妊娠に至らないケースはどのような原因が考えられますか?
神谷先生 卵巣機能の指標となるFSH(卵胞刺激ホルモン)の値が高い可能性がありますね。
FSH値が 20 ~ 30mIU / mL 以上になる と、卵胞の発育が停止したり遅延を起こしたり、卵子の質が悪かったり、採卵しても空胞だったりということがあります。
また、卵子が早期に黄体化を起こすこともありますし、妊娠しても流産しやすくなります。

FSHの上昇を抑えながら

治療にはどのような方法がありますか?
神谷先生 まずは、FSH、 E2 ( エストラジ オール ) 、 P4 (プロゲステロン)といった、卵 胞や子宮内膜の状態がわかるホルモンの値を測定して、排卵の時期を検討することが大切かと思います。
FSHが高ければ、 10mIU / mL 以下に下げてからクロミッド ® やフェマーラ ®などの服用にHMG注射を追加して排卵誘発を行います。
その期間も、ホルモン値を測定し、FSHが上昇しないように配慮しながら卵子を育てていきます。
なおさんは 46 歳で、不妊治療をされている方のなかでは年齢が高いと思います。この方法はどの年代の方にも有効なのでしょうか。
神谷先生 残念ながら、加齢による卵子の老化を防ぐことはできません。
そのため、FSHを下げたうえで排卵誘発を行っても、良好胚になる可能性はかなり低いのです。
年齢が高い場合はFSHの値を下げながら、排卵誘発剤を使わず、時間をかけて卵子が自然に育つのを待つのも1つの方法。
FSHが低ければ、 30 日以上かけて育てた卵子でも、妊娠・出産できるケースがあります。
長い時間をかけて卵子を育てる場合の、子宮内膜の状態を心配されていますが。
神谷先生 受精卵の着床には十分な厚さの子宮内膜が必要ですが、セロフェン ® やクロミッド ® を服用すると内膜が薄くなる傾向があります。
また、卵子を育てる時間が長いと黄体ホルモンの上昇で着床が抑制されます。
ですから、なおさんからのご質問にもあるように、受精卵を凍結し、子宮内膜の状態をみて胚移植を行うのもいい方法だと思います。

年齢と、妊娠率、流産率

今後、しておくといいことは何でしょう。
神谷先生 厳しいことですが、年齢を考慮すると、何歳まで治療を頑張るかを考える時期といえます。
卵巣機能は 32 歳からゆるやかに低下し、 37 歳から老化が早まり、 40 歳からは急激に機能が低下します。
妊娠継続率は、体外受精では 43 歳で2%、 44 歳で1%、 46 歳を過ぎた場合は一般的には 0.5 %です。
また、加齢に よって流産率も上がり、 44 歳以上では妊娠しても 60 ~ 80 %が流産するというデータもあります。
当院の妊娠・出産の最高齢は 48 歳ですが、それは稀なケースです。
46 歳以上で妊娠・出産した方は過去 10 年でわずか2例となっています。
治療を卒業する時期についても、ご夫婦で十分に話し合っておくといいのではないでしょうか。
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