17 週で胎児水腫に…… 排卵までに時間がかかった 卵子は質が落ちますか?
絹谷 正之 先生 愛媛大学医学部卒業。広島大学医学部産科婦人科学教室入局。その 後、東京の山王病院リプロダクションセンターにて高度生殖補助医療研 修、顕微授精を修得。1999年にはカナダ、アメリカにて高度生殖補助医 療研修を行う。2000年、絹谷産婦人科副院長、2002年より院長に。広 島県産婦人科医会常務理事。ISO9001やJISART(日本生殖補助医 療標準化機関)の認定を2010年~2011年に取得。不妊治療は時間が 限られているなか、「何もせず受診までの数カ月を過ごすよりも事前に何かで きないか?」を考えた末、今春から始めたという初診前説明会。「できるだけ 早めにメッセージを届け、一人でも多くの患者さんを救いたい」と先生。
カナさん(36歳)からの相談 Q. 私は155cm、74kgです。AMH値は不明。多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)です。2 年前に自然妊娠したものの、心拍確認後8週で流産。その後、人工授精5回目にして妊 娠しました。4回目まではクロミッド®での誘発でしたが、副作用(内膜が薄くなる)が出 てしまい、5回目からHMG製剤での誘発に変えました。5個排卵し、双子を妊娠するも、 1人は育たず、残った1人は13週までは順調でしたが、17週の検診で全身のむくみを 指摘され、その6日後に心拍停止に。診断は胎児水腫でした。出産後、胎盤の病理検査を して、結果待ちです。今回は最終月経から1カ月、誘発してから26日目の排卵でした。 やはり排卵までに時間がかかった卵子は質が落ちてしまうのでしょうか? また主人が糖尿病のため服薬していますが、影響はありますか?
胎児水腫と染色体異常
まず、胎児水腫とは?
絹谷先生 胎児水腫というのは、さまざまな原因で起こる現象で、胎児がいわゆる「水ぶくれ」になった状態のことをいいます。
17 週というのは流産しやすい時期とはいえませんが、一番考えられるのは、胎児に何かしらの染色体異常があって、心臓に欠陥などが起こってしまったのではないでしょうか。
出産後、胎盤の病理検査をされて いるようですが、それで胎児水腫の原因がわかるかどうかは不明ですね。
胎盤の病理検査では、胎盤に血栓や腫瘍があったのか、なかったのかがわかるので、胎盤側に流産の原因があったのか、なかったのかがわかるでしょう。
まず一番は、胎児の染色体検査をしたほうがよかったかなと思います。
また血液型には、ABO式と Rh 式がありますが、 Rh 式が不適合だと胎児水腫の原因になりえますので、今後のために検査しておくといいでしょう。
たとえば、カナさんが Rh(-) でご主 人が Rh(+) の場合、お子さんは Rh(+) になります。
そうすると、 Rh(-) の母 親のお腹の中に、 Rh(+) の胎児がいる ことになります。
1回目の妊娠時は母体と胎児は胎盤できちんと分かれているので、基本的に Rh(-) の人にRh(+) の胎児がいても、その Rh(+) に 対する抗体はできません。
しかしながら、出産や流産で胎盤が剥がれると、一時的に胎児の血液が母体側に入り込む可能性があります。
そうすると、自分とは違う型を持つものに対して、非自己、つまり抗原だと思い、免疫反応で抗体ができてしまいます。
そうすると2人目の妊娠の時、すでに抗体が母体側にあると胎児を攻撃してしまうのです。
これを血液型不適合妊娠といい、胎児水腫の原因として考えられます。
PCOSと流産
排卵に時間がかかったことは?
絹谷先生 僕が知る限りでは関連はないようです。場合によっては、もっと長くかかって排卵しても、特に流産が増えたりするということはありません。
ただ、カナさんのようにPCOSの方は流産が多いといわれています。
卵子の質というよりは、ホルモン環境が影響していると考えられています。
ただ、 17 週と、妊娠成立からかなり経ってからの流産なので、関連はないと思います。
糖尿病と流産
ご主人の糖尿病の薬の影響は?
絹谷先生 糖尿病の方は末梢の神経障害や血管障害などがあり、精子の数や射精など、性機能に影響することが考えられますが、服薬している薬で今回のような流産に影響するということは考えにくいと思います。
薬の服薬で糖尿病がうまくコントロールされていれば、むしろ服薬したほうがいいでしょう。
今後は、HMG製剤での排卵誘発と 人工授精で治療をされ、もしまた4個以上排卵するようなら、多胎妊娠のリスクも考慮して体外受精にステップアップしては。
カナさんの場合、体外受精で妊娠される可能性は高いと思いますよ。