胚盤胞を3回移植しても妊娠しません何か検査が必要ですか?
小田原 靖 先生 東京慈恵会医科大学卒業、同大学院修了。1987年、オーストラリア・ロイ ヤルウイメンズホスピタルに留学し、チーム医療などを学ぶ。東京慈恵会医科 大学産婦人科助手、スズキ病院科長を経て、1996年恵比寿に開院。AB 型・みずがめ座。今回の取材時は、8月のクリニック移転の準備で大忙しだっ た先生。「日本の基準となるような施設やシステムを作りたいという思いと、現 実のすり合わせが大変でした。それでも自分が理想とするクリニックができたと 思います。実際に動いてくれたスタッフに感謝しています」。
とまとさん(38歳)からの相談 Q. 昨年、不妊治療クリニックで主人の非閉塞性無精子症がわかり、MD-TESEで精子を採 取し、凍結しました。昨年末の採卵では16個採れて13個受精し、すべて凍結しました。 生理周期は30~35日。AMH値はわかりませんが、卵巣年齢は若いといわれています。 今年に入り、ホルモン補充周期で3回移植を行いました。凍結胚融解後は脱出胚盤胞2 回、胚盤胞1回で12Aから22Aのグレードでした。しかし3回とも着床した様子はあり ませんでした。今の病院では、移植の方法は1つだけとのこと。このまま移植の回数を重 ねたほうがよいのか、何か検査などが必要なのか、迷って焦っています。
染色体の問題の合併
ご主人が非閉塞性無精子症で、MD - TESEをされたそうです。
小田原先生 男性側の因子からいいますと、非閉塞性無精子症は、精管が詰まっているわけではないけれど精子が少ない、もともと睾丸でつくられている精子がよくないという状態です。
この症状ではなかなかいい精子が採れないケースもありますが、ご主人の場合、実際に精子がたくさん採れたということですから、状況としてはよかったと思います。
また、精子の中心体がしっかりと した機能を持っていないと受精や卵割に影響を及ぼすこともありますし、精子側の要因も胚盤胞の発育に関わっているといわれています。
とまとさんご夫婦の場合は、最終的に胚盤胞まで育っているので、精子側の要因というのはある程度克服されていると判断できます。
今後するべきなのは、もうしているかもしれませんが、男性側の染色体の検査です。
精子の状態が悪い場合、染色体の問題が合併していることも。
たとえば染色体の転座や逆位があると、受精卵の質や着床率に影響するものもあるかもしれません。
着床しない原因として
ほかに、着床しない要因として何が考えられますか?
小田原先生 女性側に関しては、卵巣年齢が若く、実際ある程度の数の卵子が採れているので、おそらくAMH値もかなりいいレベルなのだと思います。
ただ、実年齢が 38 歳ということは、やはりある程度、卵子の質が低下しているケースもあります。
一見いい胚盤胞でも、卵子側の質 の問題で妊娠しないケースはあります。
「 12 A、 22 A」というのは通われているクリニック独自のグレードの表し方のようなので、どの程度なのかわかりませんが、いずれにせよ我々は胚のよし悪しを形態的に判断するしかありません。
形のいい胚でも染色体の異常があることがあり、着床率が下がる場合があります。
一方で、採卵 16 個という過程で、過剰反応を示したりする場合には、背景として多嚢胞性卵巣や、それに似たような病態がある場合があります。
次の移植の前に、LH -RHテストや糖の負荷試験を行うなど、チェックは必要かと思います。
検査でも問題がなく、いい胚を内膜のいい状態で戻してもなかなか妊娠しない場合は、次は着床不全を疑います。
着床不全そのものの検査というのはないのですが、習慣性流産が症状として近いので、その検査である甲状腺機能や、免疫性因子のスクリーニングテストをしたり、当院であれば子宮の中のサイトカインといわれる免疫物質も調べます。
移植は、反復成功例のあるシート 法や、移植前に子宮の内膜に小さな傷を加えるという方法を試みてもいいかもしれません。
これらの方法はエビデンスが確立されたものではありませんが、とまとさんは凍結胚があと 10 個残っていますから、いろいろ試してみるといいと思います。
※LH-RHテスト:視床下部から分泌している黄体形成ホルモン放出ホルモン(LH-RH)を投与して、下垂体の反応(FSH、LH値)を調べ、排卵障害の部位(視床下部、下垂体、卵巣)を調べる検査。多嚢胞性卵胞症候群 の場合に実施する。