特集1 胚移植の ギモン&不安
正しい位置に移植できたのか、動くと着床しにくいのか、など 移植した後に湧いてくるさまざまな不安。
実際のところはどうなのかを ノア・ウィメンズクリニックの波多野久昭先生にお聞きしました。
波多野 久昭 先生 日本医科大学卒業。ハンブルク大学産婦人科学教室留学後、日本医科 大学付属病院産婦人科学教室講師、飯田市立病院産科科長を経て、 2005年ノア・ウィメンズクリニックを開院。A型・やぎ座。今年の夏は、ス タッフも一緒に大分・別府で行われる日本受精着床学会へ。宿泊するホ テルが海沿いなので、景色が楽しみと語ってくださいました。学会のあとの 土曜日は地獄温泉巡りの予定。「リフレッシュしてまた診療に臨みます」。
目次
ココがポイント
エコーでの子宮の確認
○見えないまま移植することはなく、事前または移植時に確認している
○便秘をしないようにし、尿を少し溜めると子宮が見えやすくなる
移植後の安静について
●移植後の安静と着床は関係なく、普段と同じ生活を送って大丈夫
●筋トレ程度はOK 心配なら、激しい運動はやめておく
HOPEさん( 35 歳) Q. 胚移植の時にエコーでお腹を見たら、ほとんど腸で子宮が見えにくいということでした。ちゃんと移植できたか不安です。そういう体は妊娠しにくいですか? 胚のグレードは4AAで一番いいと言われました。
見えないまま移植する ことはないので大丈夫
胚移植は、経腹エコーまたは経腟エコーで、子宮とカテーテルの先端の位置を確認しながら行います。
経腹エコーの場合、子宮筋腫がある方や子宮後屈の方、太っていて脂肪が厚い方は見えづらいことがたまにあります。
また、ご質問にあるように、子宮の周りには小腸があり、腸に隠れて見えないということもあります。
しかし、普通は超音波のプローブをお腹の上で滑らせたり、少し圧迫すると腸が動いて移動してくれることが多いので、子宮が見えなくて移植しづらいということはあまりありません。
ただ、腸の中にたくさん消化物が入っていると、わかりづらいということはあり、同じ人でもとても見やすい時と見づらい時はあります。
HOPEさんの場合、体型は160㎝で 42 ㎏ということですから、どちらかというと痩せ型。
脂肪が邪魔をしたということはなさそうです。
しかもそれまでの診察では、特に筋腫があるとか、子宮後屈だと言われていないようですから、たまたま見えづらかったということなのでしょう。
しかし、見えないまま胚を移植するということはありません。
そこは心配しなくて大丈夫だと思います。
経腹エコーで 見えにくい場合の移植方法
子宮筋腫や子宮後屈のために、経腹エコーで子宮が見えづらいことがわかっている方の場合は、内診時に経腟エコーで子宮の形や長さを確認しておきます。
そして、移植の際には確認しておいた方向にカテーテルを挿入していきます。
カテーテルはエコーに反射するよ うになっているので、子宮は見えなくてもカテーテルの先端は確認できます。
そして確認しておいた長さのところに移植するという方法をとります。
移植する医師のほかに経腟エコーを扱える人がいる施設では、経腟エコーで確認しながら移植するという方法も考えられます。
経腹エコーで子宮を見えやすくするためにご自分でできる対策としては、まず便秘をしないこと。
腸の中の内容物が少ないほうが見やすくなります。
それから、膀胱に少し尿をためておくと、膨らんだ膀胱が腸を押し上げて、子宮が見やすくなります。
昔は膀胱いっぱいに尿を溜めないと見づらかったのですが、今はカテーテルがエコーに反射するものになっているので、少し溜めるだけで十分見えやすくなります。
子宮の中での着床しやすい場所は、子宮底から 0.5 ㎝〜1㎝の間と言 われています。
移植の際は、エコーで見るにせよ、あらかじめ長さを測っておいて移植するにせよ、その場所を狙って胚を置きにいきます。
しかし、どんなにいい位置に移植できたとしても、100%着床するということはありません。
HOPEさんの胚のグレードは4AAとかなりいいので期待も大きいと思いますが、もしうまく行かなくても、エコーで見えなかったせいではないと思います。
hamaさん( 39 歳) Q. 体外受精で5日目に胚移植し、やや安静にと言われました。ジムでの筋トレは控えるべきですか? 上半身だけなら大丈夫?または、ヨガなどに変えたほうがいいでしょうか。
安静と着床しやすさは 基本的には関係しません
胚移植後、安静にしていたほうが着床しやすいというデータはありません。
基本的には無関係です。
移植した日にジムに行って運動しても普通は大丈夫ですし、極端にいえば、自転車に乗っても、テニスに行っても、ダンスをしても、着床しづらくなるということはありません。
当院でも、移植をした方にはその ようにお話ししています。
やはり心配に思う方は多く、移植するたびに「安静にしていたほうがいいですか?」と聞いてこられる方もいますが、「何をしてもいいですよ」とお答えしています。
多くの方が移植後に安静が必要だ と思うのは、切迫流産の時などに、静かにじっと寝ているイメージがあるからではないでしょうか。
流産するかどうかは、基本的には受精卵のよし悪しで決まります。
出血している場合は、寝ていてくださいとお伝えはしますが、受精卵に問題がなければ落ち着きますし、受精卵に染色体異常などがある場合は、寝ていても流産は起こってしまいます。
着床も同じで、安静にするかどうかより、胚自体の質にかかっているところが大きいのです。
気になるようなら 少し控える程度でOK移植は、子宮の中に胚を入れていますので、簡単に外に出てくることはありません。
胚盤胞移植の場合、ハッチングしていると、早ければ数時間のうちに着床が始まります。
もし初期胚移植や人工授精で精子を入れたとしても、一度子宮に入れたものは簡単に出てくるということはありません。
hamaさんは「やや安静に」と言 われたということですが、それは気になるならやめておいたらいいということではないでしょうか。
「これはダメかな」「あれはどうだろう」と、神経質に考えることはありません。
自然妊娠している人は、妊娠に気がつく4〜5週くらいまでは、普段とまったく同じ生活を送っているわけですからね。
hamaさんも筋トレは続けていただき、激しい運動はやめておくというくらいで大丈夫だと思います。
※経腟エコーと経腹エコー:腟から子宮へプローべを挿入して超音波画像を得るのが経腟エコー。一方、お腹の上からプローべを当てて得られる画像を見な がら行う方法が経腹エコー。