子宮頸がんで子宮を全摘出,受精卵を凍結保存できれば気持ちが落ち着くかと…

高橋 克彦 先生 慶應義塾大学医学部卒業。インターン時代に立ち会ったお産に感激し、産 婦人科医を目指す。1990年に日本初の体外受精専門外来クリニック、高 橋産婦人科を開業。後に広島HARTクリニックと改名。2000年、東京HA RTクリニック開設。「日本初」の実績を次々と打ち立て、日本の不妊治療界 をリードする。国内初の「卵子バンク」に向け、非配偶者間体外受精のた めの民間の団体「OD-NET 卵子提供登録支援団体」の副代表を務める 高橋先生。卵子提供の申し出は全国ですでに100人を超えたそう。「予想 以上の反響です。実現に向け、安全確保や法整備が必要ですね」。
Coffeeさん(41歳)からの相談 Q.第2子のための不妊治療中に子宮頸がんが見つかり、約2カ月前に広汎子宮全摘出手 術をしました。卵巣は残っています。手術後、もっと心の整理がつくと思っていましたが、 未練でいっぱいです。子宮がない以上、現時点では、国外での代理出産しかないと思わ れます。経済的な理由、倫理的な理由、その他多くの問題に立ち向かう決心がついてい る訳ではありません。きっと現実的ではないのも心のどこかでわかっています。 今すぐどうこうできる問題ではないなかで、自分の気持ちの安定のために、採卵して受精卵を凍結保存したいと思うようになりました。しかし、多くの病院では、子宮のない人の 採卵はしてくれないですよね? また、子宮がなくても腟からの採卵は可能なのでしょう か? 難しい問題だとは思いますが、アドバイスをお願いいたします。

子宮摘出のケース

まず、このようなケースでの、受精卵の凍結保存は可能でしょうか?
高橋先生 正直、無条件に受精卵を凍結保存してくださるクリニックはおそらくない、または非常に限られるのではないでしょうか。
理由は、基本的にご本人が妊娠することはできません。
いい受精卵を凍結保存できたとしても、出生に及ぶには代理出産になると思いますが……。
それをいつするのかも含めて、このような不確定な状況では、私も含めてなかなか相談にのりにくいのではないでしょうか。
それと同時に、純粋に医学的に考 えると、残念ながら 41 歳でAMH 2.8pM /Lという数値の彼女の場合、体外受精を行って、いい受精卵を凍結保存できる可能性は極めて低いと思います。
実際、当院でも統計をとっていますが、 40 歳以上の女性でAMH 3.0pM /L以下の数値で出産に至 るケースはほぼゼロなのです。
これは、何回も試みられた方を含めた数値です。
よって医学データから鑑みて、い い受精卵を凍結保存できる可能性は極めて低いことからも、実際に受精卵の凍結保存を試みるかどうかにも問題がありますね。
気持ちの部分もあるでしょうか。
高橋先生 そうですね、本題は、彼女が受精卵を凍結したいと思うに至った、本当の気持ちだと思います。
近い将来、凍結受精卵で代理母、そして出産までを考えておられるとはあまり思えません。
もしそうであれば、直接、代理出産について言及されるはずですから。
それなら、医学的には不可能ではないので、それなりの返答ができると思います。
彼女の場合はおそらく、2人目が 欲しいと思っていたところに、子宮頸がんで子宮を喪失してしまった悲しみを解決できていない心理面の問題があるのではないでしょうか。
もしそうなら、専門の心理カウンセラーによるカウンセリングを受けられることをおすすめします。
まず、子宮を全摘出したことを受け止めて理解しないと、おそらく彼女自身、前に進めないのだと思います。
いずれにしても、全摘手術から2 カ月ほどしか経っていませんね。
そのあたりの気持ちをもう少し整理されてみてはいかがでしょうか。
理論的には、受精卵を凍結しておいて、近い将来に代理出産という選択で出産することは十分可能です。
そして、腟からの採卵も可能です。
しかし、現実的には凍結保存できても、高額な費用を要する海外での代理出産が可能か、またできない場合は保存胚をどうするかなどの問題が生じます。
手術からあまり日が経っていない こともありますので、まずはカウンセリングを受けてみてください。
1人目のお子さんがいらして、そしてご自分は子宮頸がんを患った体なのですから、まずはご自分の健康を考えることも大切だと思いますよ。
>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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