神谷 博文 先生 札幌医科大学卒業。同大学産婦人科学講座、第一病理学講座に 入局後、斗南病院にて産婦人科科長を10年間務める。1998年、 神谷レディースクリニックを開業。昨年1月にクリニックを移転し、電 子カルテの導入や施設・設備の充実、スタッフの増員を図った。先 日、岡山二人クリニックの林伸旨先生が立ち上げ、神谷先生が副 理事長を務める日本生殖医療支援システム研究会の第一回研究 会に参加されたそう。「電子カルテの新たな活用スキルも学べ、とて も有意義でした」と先生。
マイナコさん(35歳)からの相談 Q.治療歴2年。乏精子症で精子ゼロと診断され、TESEをすすめられましたが、手術はせ ずに亜鉛のサプリを服用。1年後の精液検査で精子がいる状態だったので、顕微授精か らスタート。精液所見は、液量:10.5ml/精子濃度:0.21×106/精子運動率:4.76% /正常形態率:2.38%(5回目の採卵時)。胚盤胞まで進んだ時は、液量:10.5ml/精 子濃度:0.2×106 /精子運動率:0%/正常形態率:50%。 私は卵管造影検査や各種ホルモン値に異常はありません。最近のAMH値は31.4。採 卵5回、移植2回行いました。採卵は毎回できますが、異常受精の率が高く先に進みませ ん。5回目の採卵では12個のうち3個が正常に受精したものの、分割が途中で止まる など胚盤胞まで成長せず、移植中止に。男性不妊が原因と思っていましたが、卵子にも原 因があるのでしょうか?
顕微授精を成功させるための必要条件
マイナコさんのようなケースは、のような要因があるのですか?
神谷先生 顕微授精における頻回不成功例は、一般的には、患者さんの年齢が高いことや子宮内膜が薄いこと、良好な受精卵ができないなどの理由で着床が難しく、妊娠に至らないケースがあるといわれています。
受精卵の質に影響する要因は多々あり、まだ十分には解明されていません。
マイナコさんの場合、ご主人が重 度の乏精子症とのことですが、正常形態率も運動率もわずかに認められていますから、顕微授精はよい選択だと思います。
ただし、妊娠するためには質のいい精子と卵子を授精させて、よい環境下で胚の初期発育を進行させる必要があります。
質のいい精子を採取するための対策も必要でしょう。
TESEによる採精
質のいい精子を採取するためには、何をすればいいですか?
神谷先生 精巣内精子を採取することで、よりよい状態の精子を探し出せる可能性があります。
ご主人はTESEに抵抗があるようですが、不妊原因が男性側にあるのなら、主治医に相談したうえでTESEを行うことを再検討してみてはいかがでしょうか。
ご主人の年齢がまだ若いのであれば、良好な精子を採取できるまで頑張ってみてください。
AMHが高いということは
卵子の質については?
神谷先生 気になるのは、AMH値が 31 ・4とかなり高いことです。
おそらく、多嚢胞性卵巣の傾向があるのではと思われます。
他にもLH(黄体形成ホルモン)や男性ホルモン値が高かったり、生理周期が不順だったりするかもしれません。
その場合、通常であれば、排卵は難しい状態です。
そのため、フェマーラ ® やクロミッド ® 、ゴナールエフ ® を使って排卵を誘発しているのでしょう。
多嚢胞性卵巣の場合、卵胞数は多 くても未熟卵や変性卵の確率が高く、正常に受精できる良質な卵子が少なくなります。
そのため、一般的には顕微授精をしても多核受精になるなど、正常な受精が少なくなるといわれています。
サプリ、漢方の活用
今後、どうすればいいでしょうか。
神谷先生 ホルモンを正常値に改善することを含めた、体質改善をしていくのがいいでしょう。
たとえば、卵の糖代謝を改善し良好な卵子を形成するという報告もあるメトホルミンを飲んでみるのも1つの方法です。
また、抗酸化作用のあるビタミンEやビタミンCをサプリメントで補ったり、体質改善のために漢方薬を服用してみるのもいいかもしれません。
排卵誘発法は、フェマーラ ® のようなアロマターゼ阻害剤とゴナールエフ ® を組み合わせて、卵胞数を 10個以内にコントロールするのもいいと思います。
多嚢胞性卵巣でも良好な受精卵が得られれば、通常の体外受精のケースと同様の妊娠率が期待できるのではと思います。
※TESE:精巣内精子採取術。射精した精液中に精子が見つからない場合に、精巣内から精子を採取する方法。