石川 弘伸 先生 1991年滋賀医科大学卒業、同大学院修了。泉大津市立病院副医長、水 口市民病院産婦人科医長、野洲病院産婦人科部長を経て、2003年より 醍醐渡辺クリニック副院長。大学院では生殖医学で着床の分野の研究に 携わり、生殖医療の道を志す。大学で2年先輩である同クリニック院長の渡 辺浩彦先生との縁で同クリニックへ。A型・射手座。同クリニックでは今年 から電子カルテを導入予定。待ち時間の短縮につながればと期待していま す。続いて検査室、培養室の改修も行われているところ。ハード、ソフトの両 面でさらに進化を続けています。
マヨンさん(37歳)からの相談 Q.体外受精の治療をして4年です。4回の体外受精の後、転院。アンタゴニストを使用す る顕微授精にステップアップしましたが、3回とも胚盤胞まで至りませんでした。先生は 卵子のグレードはいいとおっしゃいましたが、グレードは回数を重ねるごとに落ちていきま した。その後、再び転院。これまでの治療歴を伝えると、卵子が弱いのに、強い刺激の誘 発法や針を刺しての顕微授精によって卵子がダメージを受けているのかもという指摘。よ り優しい刺激のフェマーラ®法をすすめられました。1回目は1個採卵できたものの異 常受精で移植できず、2回目も同じ方法で治療を行います。
体内のホルモンを逆利用する
2回の転院を経て、積極的に挑戦している体外受精が4年目に。担当医から「卵子がダメージを受けている」と言われ、今後の治療に迷いを感じていらっしゃいます。
石川先生 卵子のつくられる過程で何らかの問題が起きているのかもしれませんね。
AMHの値も0・ 38 と低いので、実年齢よりも卵巣年齢が高いということになると思います。
「顕微授精の針で卵子がダメージを受ける」というのは、結論が出せない難しい問題です。
卵子が弱いから針を刺すといけないのか、逆に弱いから針を刺して受精させたほうがいいのか、どちらとは言いがたい。
それよりも、転院後の治療歴を見 てふと思ったのですが、マヨンさんはアンタゴニストを使用した時に、かなり採卵数が増えています。
一方、ロング法かショート法かはわかりませんが、点鼻スプレーを使った卵巣刺激ではあまり採卵できていません。
ショート法やロング法は、下垂体から出るホルモンをギュッと抑え込んで、注射だけで卵子を育てるという方法なので、それだとあまり採卵数が芳しくない感じがします。
これはマヨンさんの体の中のホルモンの状態が悪くないということですから、その状況を利用しながら採卵する方法、自然周期や低刺激がやはり合っているのかもしれません。
卵子の質が落ちているのではという不安もあるようですが。
体外受精の成績に影響するのは?
石川先生 体外受精の成績を決めるのは、卵子の質、精子の質、そして培養技術です。
その中で改善しやすいところはやはり卵子の質、排卵誘発をどうするかというところです。
ある程度の実績を残している施設では、しっかりした培養技術が確立しているはずなので、どのクリニックでも排卵誘発の方法を工夫するのはそのためです。
当院では、AMHの値を測定し始 めた2009年から、AMHが極端に低い 0.7 以下の方々の妊娠の統計が ありますが、出産に至ったケースが80 例ありました。
そのグループの排卵誘発法を調べたところ、基本的にショート法に反応した方は妊娠しやすい傾向にあるので最も多いのですが、それ以外は見事にバラバラ。
皆さん、本当にいろいろな方法で妊娠されています。
低AMH=低刺激ではない
一般的に、AMHの値が低い人は低刺激や自然周期にという傾向はあるが、ひとくくりにはできない?
石川先生 はい。
そうしたAMHの値が低い方の中にも、ショート法などに反応する方もいらっしゃいます。
ですから、毎周期、LHやFSHの値を測定し、だいたいどれくらい採卵できるか予測したり、月経中も超音波でどれくらい小卵胞がスタンバイしているかを調べて、その時々に応じた排卵誘発を選んでいくことが重要なのです。
マヨンさんは少し悲観的になっていらっしゃるところがありますが、諦めずに治療を続けてほしいと思います。