神谷 博文 先生 札幌医科大学卒業。同大学産婦人科学講座、第一病理学講座に入局 後、斗南病院にて産婦人科科長を10年間務める。1998年、神谷レディー スクリニックを開業。昨年1月にクリニックを移転し、電子カルテの導入や施 設・設備の充実、スタッフの増員を図った。2013年は、患者さんの満足度 を高めるために、さらにきめ細かいサービスの実践が目標。「定期開催してい る不妊症教室、ART教室を、当院の患者さん以外にもご参加いただけるよ うにしていきたいです」と先生。
ゆきちんさん(35歳)からの相談 Q.昨年7月に検査をし、多嚢胞性卵巣症候群と診断されました。夫は不妊専門病院で検査 し、精子の運動率50%で問題なしと言われています。 私は不妊専門病院への通院が仕事や距離の関係で難しく、8月から近所の婦人科で排卵誘発剤と黄体ホルモン注射をくり返し、タイミング指導を受けています。11月からは主治 医の判断で排卵誘発剤を休んでいますが、それ以来、体温が高温期に入らず、生理が来る 気配がありません。無排卵状態なのか、ホルモンに乱れがあるのか不安です。体外受精に ステップアップしたほうがいいのかも迷っています。
PCOSについて
ゆきちんさんは、婦人科で多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)という診断を受けていますが、これはどんな症状なのですか?
神谷先生 PCOSとは、卵巣内に卵胞がたくさんあり、一つひとつの卵胞が成熟しにくいため、排卵が起こらない場合が多くなります。
生理不順や男性ホルモン値が高い、LH(黄体形成ホルモン)がFSH(卵胞刺激ホルモン)よりも優位になっているなどの症状がみられます。
超音波検査をすると、左右の卵巣に 10 個以上の未成熟の卵胞がネックレスのようにつながっている「ネックレスサイン」と呼ばれるものが見える場合があります。
PCOSの治療法
どんな治療法がありますか?
神谷先生 クロミッド ® などの排卵誘発剤を処方するのが一般的です。
クロミッド ® では効果が出にくい男性ホルモン値が高い人や、インスリン値が高い人の場合は、糖尿病薬のメトホルミンと併用するのが効果的です。
それでも効果がないケースでは少量のHMG注射を行うこともあります。
なお、クロミッド ® 抵抗性のPCOSの場合には、フェマーラ ® などで効果が期待できます。
それでも排卵が起きない場合には、成熟した卵胞を採卵して、体外受精を行うという方法も検討するといいでしょう。
ほかにも、電気メスやレーザーで卵巣に多数の穴を開けて排卵しやすくする、腹腔鏡下ドリリング手術という手術療法もあります。
PCOSは肥満の方にみられることが多く、BMIが 25 ~ 30 %以上の人はダイエットをするだけでも排卵が自然周期になることがあるんですよ。
最適な治療法は患者さんの症状に よって異なりますから、主治医の先生とよく相談して選択することが望ましいですね。
AMHの計測から
ゆきちんさんのケースでは、まず何から始めればいいでしょうか?
神谷先生 不妊治療専門病院で、詳しく検査することをおすすめします。
超音波検査では、正常であるにもかかわらずPCOSのパターンを示すケースがあります。
ですから、PCOSと確定するためには基礎体温を記録し、AMHの値も調べること。
AMH値が低いと卵巣の中の卵子が少なく妊娠しにくいのですが、高すぎてもクロミッド ® が効かないケースがあるのです。
不妊治療専門病院で検査をして、問題があればそれを解決するための薬を処方してもらいましょう。
クロミッド ® やHMG製剤で排卵を促すのが基本ですが、ゆきちんさんの場合、クロミッド ® を4周期使っていますから、内膜が薄くなる副作用を避けるために、違う薬を使うのも一つの方法です。
ご自分に合った治療法を3~4周期試してみて、効果がなければ体外受精を考えてもいいのではないでしょうか。
※多嚢胞性卵巣症候群(PCOS):月経異常や不妊、多毛、肥満などの症状があり、慢性的にアンドロゲン(男性ホルモン)の過剰や血液中の黄体化ホルモンが高値(卵胞刺激ホルモン上昇を伴わない)を示す。排卵巣内にた くさんの小嚢胞がある。
※フェマーラ®:採卵を目的に、薬を投与して卵巣を刺激する際に用いられる薬の1つ。低卵巣刺激法で使用する。保険適用外。本来は乳がんの治療薬として用いられる。
※ HMG製剤:注射剤の排卵誘発剤。閉経後の女性の尿から精製して作られた卵胞刺激ホルモン。黄体化ホルモンを含み、卵胞の発育・成熟を促す。