卵巣老化と卵子の質の低下で治療法がないそれでも妊娠できますか?【医師監修】

卵巣老化と卵子の質の低下は関係があるのでしょうか? 卵巣年齢に関する基本知識や治療について レディースクリニック北浜の奥裕嗣先生に伺いました。

【医師監修】奥 裕嗣 先生 1992年愛知医科大学院修了。蒲郡市民病院勤務の後、 アメリカに留学。Diamond Institute for Infertility and Menopauseにて体外受精、顕微授精等、最先端の生 殖医療技術を学ぶ。帰国後、IVF大阪クリニック勤務、 IVFなんばクリニック副院長を経て、2010年レディース クリニック北浜を開院。医学博士、日本産婦人科学会 専門医、日本生殖医学会生殖医療専門医。オフタイムは、 グルメ本を片手に食べ歩くのが趣味。一方で、最近は体 重も気になっているのだとか。「夕食が遅いから、太っち ゃうのかな~(笑)」と、おおらかでお茶目な人柄の先生。

ドクターアドバイス

検査時期が間違っているので まずは正しい時期に再検査を
なちこさん(27歳)Q.結婚1年半の主婦です。結婚当初から避妊していないのに、なか なか妊娠しません。実は、約4年前に今の旦那との間に子どもを授 かったのですが、若さと経済的な理由で中絶しました。 先日から病院で検査を受けていますが、生理6日目の採血で卵胞 刺激ホルモン(FSH)の値が11.2と、年齢の割に高すぎると言われ、 その治療法がないとのこと。さらに、血中エストラジオール(E2) 値が132と低く、排卵はしているが卵子の質はよくないと言われま した。卵胞刺激ホルモンが高いと、卵子の質が悪くなるのでしょう か。また、治療法はなく、妊娠は難しいのでしょうか。

なちこさん のデータ

■月経について

初経は小学5年。
生理周期25~29日で、 最近は経血量が少なめ。
この2カ月間、生理の4日ほど前にわず かな不正出血あり。
ここ半年は排卵日頃に排卵痛を感じるよ うになった。

■検査歴・治療歴

●生理中の採血検査(生理6日目、  ほぼ終わり頃)
TSH:1.30
プロラクチン:15.2
FT4:1.2
FT3:3.5
黄体化ホルモン:5.5
卵胞刺激ホルモン(FSH):11.2
●採血検査(排卵あたり)
エストラジオール(E2):132

ホルモン値から考察

FSHと E2 の値に問題があると言われたそうです。
奥先生 この方は、FSHを月経6日目に測っていますね。
まず、この測る時期が間違っています。
通常、FSHは「Day3」採血といって、月経2〜4日目に測ります。
FSHは、2〜4日目ではまだあまり上昇していませんが、6日目には通常すでに上昇していますので、6日目の11 ・2の値は正常と考えます。
ですから、「Day3」採血の結果、FSH値が 10 以下だと正常で(理想は8以下) 10 以上だと卵巣年齢が低下していると診断します。
卵巣年齢をより正確に知るためには、 抗ミュラー管ホルモン(AMH)と月経中の超音波の検査で、胞状卵胞の数を測るのが一番だと思います。
FSHだけではわかりにくい体外受精時の採卵数や閉経年齢など、卵巣年齢が手にとるようにわかりますから。
 E2 の測定時期も、「排卵あたり」とやや大雑把ですね。
この時の卵胞の大きさが書かれていないので正確にはわかりませんが、これも測定時期が早すぎたかもしれません。
もう2〜3日待つと、200〜300まで上昇する可能性もあり、結果的に問題ないのかもしれません。
また、1周期だけでは正確ではないので数周期のチェックが必要と思います。

卵質の低下の問題

FSH値が高い(卵巣の老化)ことと、 E2 値が低い(卵子の質の低下)ことに相関関係はありますか。
奥先生 FSHが高いから、もしくはAMH値が低値だからといって、卵子の質が悪くなることはありません。
そもそも卵子の老化とは、卵子の染色体異常の割合を指します。
AMH値は、体外受精の時の採卵数や閉経年齢などを知るための指標です。
AMH値が極端に低くても、自然妊娠する方はたくさんいます。
FSHが高いから、AMH値が低いから、タイミング療法や人工授精の妊娠率が下がるというわけではありません。
ちなみに染色体異常は、 20 歳代で約 40 %、 30 歳代で約 50 〜 60 %、 35 歳で約 70 %、 40 歳代で約 80 %以上の確率といわれ、年齢に比例して増加します。
27 歳のこの方は、仮に受精卵に染色体異常があったとしても約40 %ですので、AMHが低い場合は体外受精の場合の確率は通常の 20 代の 50 %から 25 %と低くなるかもしれませんが、基本的に良好な受精卵が1個あればいいので、それなりの成績は出ます。
もちろん、自然妊娠したとしても不思議ではありません。
ただ問題なのは、卵巣年齢が高い方は、卵巣の老化が加速度的に進むということです。
そうすると、治療する期間が限られてきますので、まさに時間との戦いになります。
通常、27 歳の方なら、少なくとも 10 年くらいは治療期間があると考えられますが、卵巣年齢が高いと、その期間は短くなります。
ですから、少しでも妊娠の確率が高いうちに、ステップアップを検討するなど、治療スピードの考慮が重要になります。

状況に応じた治療法を考える

卵巣が老化している場合、先生はどのように治療を進めますか?
奥先生 卵巣の老化に対する治療は難しく、前述のステップアップを検討します。
通常、 20 代の方では、タイミング療法を半年してみてだめなら、人工授精を半年行うといった方法が一般的ですが、卵巣年齢が高い方は、程度に応じて、タイミング療法の期間を短くして人工授精に進んだり、もしくはタイミング療法はせずに、人工授精から始める場合もあります。
さらに、患者さんの年齢が高い場合は、最初から体外受精に進むこともあります。
ちなみに当院では、卵巣刺激の前にピルを全周期に投与する独自の方法を行っています。
ピルの投与によってFSH値が適度に抑えられると、卵胞が均一に成長します。
すると、良好な卵子の採卵数が増え、妊娠率の向上にもつながります。
また、前周期にピルを使う方法では、黄体化ホルモン(LH)が適度に下がるので、LHが高くて卵子の質がよくないような多嚢胞性卵胞の方でも、良好な卵子の採卵数を増やすことができます。
そのほかの方法としては、 20 代の方であれば、通常はロング法かアンタゴニスト法で行うところを、クロミッドⓇやレトロゾールといった経口薬と排卵誘発剤の注射を同時に使用し、後半にアンタゴニスト製剤の注射を併用することがあります。
この方法だと胚質はロング法と同等で採卵数が増えます。
さらに卵巣年齢が高い方には、自然周期で月経3日目からクロミッドⓇやレトロゾールを投薬し、後半にアンタゴニストを使う「自然周期アンタゴニスト法」もあります。
これは排卵誘発の注射量が少なく毎月効率よく採卵できるので、患者さんにとっても非常にフレンドリーな方法だと思います。
1年半経っても妊娠しないことについて、ほかに考えられる原因は?
奥先生 男女ともに何も問題がない場合、1回の性行為での妊娠率は 17〜 23 %といわれています。
仮に 23 %× 18 カ月(1年半)と考えると、タイミングがずれているだけでなく、何か原因がある可能性があると思われます。
1つ気になるのは、中絶手術の後に内膜が薄くなり、経血量が少なくなっていないかです。
手術の時に、器具で内膜をひっ掻くと、血流が悪くなって内膜が薄くなり、不妊原因になるケースがあります。
排卵時の内膜の厚さが8㎜以上あれば問題はありません。
また、1〜2%の割合ですが、卵管の閉塞や癒着が起こる場合もあるので、一度、子宮卵管造影検査をしてみるといいと思います。
ただ、以前に1度妊娠しているということは、なちこさんにとっていい情報です。
妊娠したということは卵子の質や子宮の受け入れ側の問題はなかったと考えられます。
もし内膜が薄くなっていれば、アスピリンを併用するなど、いくつか治療法もあります。
頑張って治療を進めていけば、妊娠する可能性は十分あります。
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