1人目出産の後、無排卵に。こんな状態でも2人目を 妊娠・出産できますか?【医師監修】

【医師監修】徳岡 晋 先生 防衛医科大学校卒業。同校産婦人科学講座入局。自衛隊中央病院産婦人科 勤務後、防衛医科大学校医学研究科に入学し、学位(医学博士)取得。 2000年より木場公園クリニックに勤務。5年間の勤務を経て2005年に独立 し、とくおかレディースクリニックを開設。A型・みずがめ座。不妊治療にあた るうえで重要に考えているのは「スピード」。特に年齢の高い人は早い時期に検 査を進めていき、卵巣機能の状況に合わせたスピーディなステップアップを提案。 結果を出せる後悔のない治療を信条としている。
キャサリンさん(32歳)からの投稿 Q.1人目の出産で、弛緩出血・肺塞栓・輸血3500ccと壮絶な体験をしました。その後遺症 のためか、産後1年半経っても生理が来ず、病院へ行くように。今はプレドニンⓇ5mgを1 日1回と、プレマリンⓇヒスロンⓇ、またはスパクロミンⓇを1日2回飲む治療、経口薬 ではなくHMGHCGの筋肉注射をする治療をくり返しています。初期の頃は、甲状腺の 機能も落ちていたようで、チラーヂンⓇという薬も服用していました。治療を始めて1年半 が経ち、排卵できたのは3回。病院では「妊娠は無理ではないけれど、1人で十分じゃない」 と言われ、ショックでした……。私のような場合でも、もう一度妊娠・出産できますか?

下垂体と排卵の関係

1人目のお子さんの出産時にかなり出血されたということですが、これが現在の排卵に影響を及ぼしているのでしょうか?
徳岡先生 3500㏄輸血されているということですから、実際の出血はおそらくその倍量程度あったのだと思われます。
分娩時に大量の出血があると、脳の下垂体門脈というところに血液が通わなくなり、下垂体の急性壊死を起こすことがあります。
下垂体は、体の免疫機能を整える副腎皮質ホルモンや心機能、汗などを調節する甲状腺ホルモン、FSHなど生殖機能に関係する性腺刺激ホルモンなど、生命維持に関わる大切なホルモンを分泌させる命令を出している部分なんですね。
壊死や変性により機能が低下することで、ホルモンの分泌がうまくいかなくなる病態は「シーハン症候群」と言われているのですが、女性の場合は無月経の状態になることがあります。
おそらくキャサリンさんは、この症候群の可能性があるのではないでしょうか。

下垂体機能不全?

治療を始めて1年半ということですが、現在の治療法を今後も続けていっていいのでしょうか。
徳岡先生 初期の頃は甲状腺の機能も落ち、チラーヂンⓇという薬を服用していたようですが、現在は服用していないとのこと。
そのことから考えると、下垂体機能不全という状態ではなく、低下している状態だと思われますので、回復することも考えられます。
今は下垂体からホルモンを出させるためにスパクロミンⓇ、いわゆるクロミフェンの薬を服用されているようですが、おそらくこれはあまり効いていないのではないでしょうか。
また、プレドニンⓇも飲まれていますが、この薬は、どちらかというと多嚢胞性卵巣症候群の場合に使うことが多いんですね。
副腎の機能が落ちて内科的に使用しているのなら別ですが、排卵を促すためということなら、多少の副作用もあるので、当院ではこの方のようなケースの場合は使用していません。

治療方針

先生ならどのような治療方針を立てますか?
徳岡先生 内服薬はやめて、FSH│HCG、もしくはHMG│HCGの注射に絞った治療がいいのでは?
卵巣機能には問題がないと思いますので、排卵の命令系統のホルモンを促す注射による治療を続ければ、妊娠の可能性はあると思います。
不妊治療専門クリニックや大学病院など、何か起こってもしっかりフォローアップできる施設なら、安心して治療に臨めるのではないでしょうか。
※プレドニンⓇ:合成副腎皮質ホルモン。
※プレマリンⓇ:エストロゲン製剤。黄体機能不全による不妊症に用いられる。
※ヒスロンⓇ:黄体ホルモン製剤。黄体機能不全による不妊症に用いられる。
※スパ クロミンⓇ:排卵誘発剤クロミフェンの一つ。
※HMG製剤:卵巣に作用して発育卵胞を形成するヒト下垂体性性腺刺激ホルモン剤。
※チラーヂンⓇ:甲状腺機能低下症などの場合に 用いられる薬。
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