大豆イソフラボンの働き【医師監修】

【医師監修】塩谷 雅英 先生  島根医科大学卒業。卒業と同時に 京都大学産婦人科に入局。体外受 精チームに所属し、不妊症治療の 臨床に取り組みながら研究を継続す る。1994 ~ 2000 年、神戸市立 中央市民病院に勤務し、顕微授精 による赤ちゃん誕生に貢献。2000 年3 月、不妊専門クリニック、英ウィ メンズクリニックを開院。

妊娠のための体づくりをサポートする 大豆イソフラボンの働き

女性ホルモンのエストロゲンとよく似た働きをするとして、 近年注目されている成分・大豆イソフラボン。 この成分が妊娠・着床もサポートするという共同研究をされた 英ウィメンズクリニックの塩谷雅英先生に、お話を伺いました。

大豆に多く含まれる 穏やかな女性ホルモン

注目している女性も多いイソフラボン。女性の体にどのように作用する栄養素なのでしょうか? 英ウィメンズクリニックの塩谷先生に詳しくお話を伺いました。

塩谷先生 イソフラボンは大豆から抽出された成分の一つで、別名、植物性女性ホルモンとも呼ばれています。

女性ホルモンというと、人や動物だけのもののように思われがちですが、実は植物にもあり、特に大豆に多く含まれています。

そして、女性ホルモンとしての作用がとても緩やかであるという特徴があります。

たとえば、更年期や老年期の女性が、減少してきた女性ホルモンを補うためにピルを飲む。

そうすると、胸が張ったり出血したりする副作用が出る場合があります。

これはピルに含まれる女性ホルモンが強すぎるためです。

そういう方がピルをイソフラボンに替えると、無理なく快適に過ごせるようになるのです。

つまりイソフラボンには、女性の体に優しく働くという長所があるんですね。

子宮内の血流を促進し 子宮の機能を活性化する

またイソフラボンには、女性の妊娠や着床にもよい影響があるとお聞きしたのですが。

塩谷先生 はい。女性ホルモンは、妊娠するためには欠かすことができない、とても大切なものです。

そこで、体にソフトに作用するイソフラボンの特質を生かして、不妊治療に活用できないだろうかと考え、6年前に第1弾の研究を行いました。

これは、なかなか妊娠に至らない方にイソフラボンを飲んでいただいて、どのような効果が現れるか調べるというものです。

子宮の中に流れる血液の量、すなわち子宮の血管抵抗が高まるのか、あるいは子宮内膜が厚くなるのかということを検証しました。

20 人ほどの方に参加していただき検証した結果、残念ながら子宮内膜が厚くなるということはありませんでしたが、イソフラボンによって、子宮への血液の流れが増えるという貴重なデータを得ることができました。

子宮に血液がたくさん流れるということは、子宮の機能が活性化することにつながります。

子宮の機能とは、受精卵を迎え入れて宿し、育てること。

つまり、子宮の血流をよくすることは、妊娠を可能にし、うまく着床するためにとても重要だということです。

さらにこの結果は、冷え性で悩んでいらっしゃる方にも朗報ですね。

子宮内の血液の流れがよくなるというのは、血管が開いた、拡張したということです。

冷え性の方は、手足の血管が収縮し、血液の循環が悪くなっていると考えられますから、イソフラボンを摂ることで血液の流れを円滑にすることができます。

手足が冷えているということは、子宮内の血液の流れもかなり悪いと推察されます。

冷え性が不妊の原因の一つになっている場合もありますから、慢性的な冷えを感じておられる方には、イソフラボンで改善を図るのもよいでしょう

科学的な見地で実証された 妊娠・着床への作用

塩谷先生も携わられた共同研究で、さらなる不妊治療への有効性が確認されたと聞いています。どのような研究成果が報告されたのでしょうか。

塩谷先生 まず第1弾の研究で、イソフラボンには子宮内の血流を増進する作用があるということを実証することができました。

では、〝この植物性女性ホルモンにそれ以上の効能はないのだろうか、子宮の細胞にダイレクトに働く作用があるのでは?〞ということで、さらに一歩先を検証するために、武庫川女子大学とニチモウ株式会社が行った共同研究に参画しました。

これは、不妊症の方に提供していただいた子宮内膜の細胞にイソフラボンの成分を加えた時、試験管の中でどのような変化が起きるのかを調べる方法で行いました。

この実験によって、イソフラボンには、妊娠・着床のための必須成分である白血病阻害因子(LIF)とトランスフォーミング成長因子β(TGF ― β)を分泌する力を高める作用があること、そして、受精卵が着床する時に接着剤のような働きをするグリコデリンタンパク質が発現することが実証されました。

イソフラボンには子宮内の血流を促進するだけではなく、子宮内膜の細胞にも直接働きかけて、妊娠や着床に有効な3つの成分の分泌・発現を促進する作用がある―― 。

2008年3月に発表された この研究成果は、世界初の画期的なものであり、この共同研究の論文が掲載された英国の医学雑誌でも非常に高い評価を受けました。

豆乳などの食品を 食生活に取り入れてみる

なるほど、とても興味深い結果が出ているのですね。それらのイソフラボンの作用を、日常生活でも生かすことはできるのでしょうか?

塩谷先生 もちろん、日々の食生活のなかで、豆乳や納豆などのイソフラボンを含む大豆製品を意識して摂取することは、妊娠・出産を望んでいる方をはじめ、健康な毎日を送るためには大変有益なことだと思います。

そもそも、不妊治療をしている方にとって、食生活はとても重要です。

イソフラボンは効果があるからといって摂りすぎることには注意が必要ですが、食生活のなかで、無理なくイソフラボンを摂取する努力をしてみるのもよいと思いますよ

イソフラボンって?

イソフラボンは、大豆に多く含まれるフラボ ノイドの一種。更年期に入って女性ホルモン のエストロゲンが減少すると、カルシウムが 不足して骨粗鬆症を引き起こしやすくなった り、更年期障害の症状として肩こりやイライ ラ、冷えのぼせ、不眠といった体の不調が現 れたりします。それらを予防し、改善すると して注目されているのが、女性ホルモンのエ ストロゲンとよく似た働きをすることで知ら れる大豆イソフラボンです。

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