受精卵の質を高め、タイミングを見極めた治療を続けることが 着床率向上には不可欠【医師監修】

【医師監修】渡辺 浩彦 先生 滋賀医科大学卒業後、京都大学医学 部附属病院産婦人科、大津赤十字病 院、済生会茨木病院などを経て、 1971年から不妊治療を行っている父 の病院を継承。不妊治療から分娩ま で手がけ、365日24時間の診療体 制をとる。O型・おとめ座。10 年以 上かけて続けてこられた、観音霊場 を参拝する西国三十三所巡礼の旅。 いよいよ目指すは岐阜の33 番谷汲 山のみ。「終わってしまうのも寂しい ので、もう少し先に……」と渡辺先生。

着床しない原因は受精卵

まず、着床しない要因について、どのようなことが考えられますか。

渡辺先生 原因の9割は受精卵の質に左右されると考えます。

何度試みても着床がうまくいかなかった人が、質のよい卵子提供を受けた受精卵によって妊娠したという海外のデータを見てもわかるように、受精卵の状態がよければ、正常に着床する。

つまり、本質的な着床不全というのは実はかなり少なく、受精卵側に問題のある場合が多いのではないかというのが、私の基本的な考えです。

子宮内膜の厚み

着床と子宮内膜の厚さの関係性については、いかがでしょうか。

渡辺先生 子宮内膜の厚さは 10 〜 12㎜が理想ですが、基本的には8㎜あればよいでしょう。

子宮内膜が薄ければ、統計的には妊娠率は下がります。

しかし、子宮外妊娠にも代表されるように、受精卵の質がよければ、子宮内膜以外の場所にも着床しますので、一概に子宮内膜が薄いから着床しないとは言いきれません。

内膜の薄さを着床不全の因子の一つとみなすのは早計だと思います。

着床を妨げる他の理由

受精卵の問題以外に、着床を妨げると考えられるものはありますか。

渡辺先生 数は少ないのですが、帝王切開や子宮筋腫、子宮形成術などの手術を受けた後、着床しにくくなる患者さんをちらほら見受けます。

たとえば、帝王切開の瘢痕部が内側にめくれ込んで、子宮内膜が厚くなってきた時にそこから不正出血したり、子宮内部に血液がたまるケースがあります。

内部に液体が貯留すると、そこには受精卵を戻すことはできませんし、着床するとは考えにくい。

もちろん、液体を吸い取るなどの処置は行いますが、子宮手術のあとは着床が難しくなる可能性があり、注意が必要です。

ダナゾールの活用

受精卵の質を向上させるために、先生が注目されている方法は?

渡辺先生 着床については今後徐々に解明されていくでしょうが、まだまだ闇の中というのが現状です。

そんななかで唯一、治療法として可能性を感じているのは、ダナゾールの服用です。

受精卵の質を上げ、着床の改善にも効果があるということは、いくつかの施設から学会発表されていますので、試してみる価値はあると思います。

タイミングが大事

受精卵の質を高めると同時に、重要だと思われることは何でしょうか。

渡辺先生 子宮内膜はいつでも受精卵を受け入れることができるわけではなく、「インプランテーション・ウインドウ」と呼ばれる受け入れ可能期間は、1カ月に2日間ほどだといわれています。

通常、プロトコール通りに行えば、体外受精の胚移植はその時期にピタリと当てはまって着床するはずなのですが、何らかの理由で黄体ホルモンが早期に上昇したり、凍結胚移植の時に予測がずれてしまうと、着床が困難になります。

受精卵側にとっても子宮内膜側にとっても、タイミングが合うということが重要です。

受精卵の質を上げる努力とタイミングを見極めた治療を続けることが着床率の向上に有効だと考えます。

※ダナゾール:子宮内膜症治療薬。エストロゲン合成を阻害して、子宮内膜症組織を萎縮させたり、細胞増殖を抑制する。

 

 

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