【医師監修】大野 元 先生 岐阜大学医学部卒業。岐阜大学医学部大学院修了。ブリティッシュ・コ ロンビア大学(カナダ)研究員、岐阜大学助手、IVF大阪クリニックを経 て、1999年8月開業。専門は周産期と不妊で、体外受精のエキスパート。 O型・おうし座。排卵のタイミングを逃さないようにするべく、365日ほ ぼ休みなしでスタンバイする穏やかながらも頼れるドクター。できるだけ患 者さんに負担の少ない治療法を選ぶのがモットー。
yuchakoさん(35歳)からの投稿 Q.1人目出産後、なかなか2人目ができず、1年前から薬、注射 (HMG、HCG)をしながらのタイミングで治療中です。血液検査、造 影検査、精液検査も特に異常がなく、月経周期も29~31日と順調 です。まだ診断されたわけではないですが、原因不明の不妊はピックアップ障害が多いと聞いて、焦ってます。ピックアップ障害と診断さ れるのは、お腹の中を見ないとわからないのでしょうか? もし診断さ れたら、治療はやはり体外受精しかないのでしょうか? 金銭的にも体 力的にも、体外受精はできません。諦められたらいいのですが……。
不妊原因の考察
2人目の妊娠がなかなかできないということで治療中のyuchakoさんですが、先生は不妊の原因をどう診断されますか?
大野先生 すでにお子様が1人いる、それから月経周期が順調である、精液検査も異常なし、ということを総合的に判断すると、やはり原因不明不妊に当てはまると思います。
yuchakoさんの指摘される通り、当院でも、比較的若い方で原因不明不妊の場合は、ピックアップ障害を疑います。
ピックアップ障害になる原因はクラミジア感染症などの炎症も考えられますから、1人目はOKだったけど、その後にかかって2人目で……というのはあり得ることです。
ピックアップ障害とは、排卵があり、卵管は通過しているものの、卵子が卵管にとり込めない、つまり卵子と精子が遭遇していない状態。
ですから、タイミング指導や人工授精では妊娠できないんです。
ピックアップ障害の診断は、お腹の中を見ないと……というのは、どういうことでしょうか?
大野先生 これは卵管造影検査や腹腔鏡のことだと思いますが、これらの検査では卵管采の形や癒着などは確認できますが、ピックアップ障害かどうかの確実な診断はできません。
yuchakoさんは、すでに造影検査で異常なし、との結果も出ていますし、必ずしも腹腔鏡などの検査が必要だとは思いません。
不要な検査や治療を省くことで、早期の妊娠に結びつくことは経験的に感じています。
体外受精で分かること
やはり体外受精へ進むべきだと?
大野先生 そうですね。当院でも、ピックアップ障害が疑われたら、早めに体外受精をすすめています。
ピックアップ障害が原因だと断定できないとしても、体外受精をすることで結果的に、卵管因子を含め他の不妊原因も想定できます。
その場合、 yuchakoさんの排卵誘発法は、クロミフェンを使った低刺激で十分だと思いますね。
低刺激周期のメリット
なぜ低刺激法で十分なのですか?
大野先生 まず、 yuchakoさんは月経周期が順調です。
つまりホルモンバランスがよく排卵もきちんとあるはずですから、自然周期でも良好胚が採れる可能性が十分あります。
また、排卵障害がないにもかかわらず、現在、注射を漫然と使用していることは見逃せません。
HMG製剤やHCG製剤の使用により、妊娠すればよいですが、妊娠しなかった場合、数に限りがある卵子に与えるダメージも考慮しないといけません。
今は、各自治体によって不妊治療の助成金制度も整っていますし、金銭的な意味でも、自然周期や低刺激法による体外受精は患者さんの負担も少ない方法です。
諦める前に一度、体外受精にチャレンジすることをおすすめします。