体外受精を考えてはいるけれど、費用もかかるし、 できれば人工授精でもう少し頑張りたい。 でも、チャレンジするなら何回くらいまで? 藤野婦人科クリニックの藤野先生にお聞きしてみました。
【医師監修】藤野 祐司 先生 大阪市立大学医学部卒業。米国留学、同大学医学部婦人科 学教室講師を経て、1997年にクリニックを開業。現在、同 大学で非常勤講師も務める。B型・おとめ座。先日、菩提寺 の過去帳などをもとに藤野家の家系図を完成させた先生。次 は一族の歴史に時代背景などを盛り込み、物語風の冊子にし ようと準備中! 家族と歴史を深く愛する先生ならではのロマ ンあふれるプロジェクト。
ドクターアドバイス
ステップアップのタイミングは人それぞれ。 体外受精は、不妊原因を探る 有効な検査方法と考えてはいかがでしょう。
キューピーさん(パート・31歳)からの投稿 Q.治療2年目です。人工授精を8回しましたが妊娠に至らず、先生のすすめもあり、 病院を変えることにしました。でも、体外受精はお金がかかることなので、 新しい病院でも、できるなら人工授精を何回かしてみようと思っています。 しかし8 回もして妊娠に至らなければ、無理でしょうか? これくらいの回数で妊娠した方、いらっしゃるでしょうか?
人工授精は何回まで?
人工授精8回〞は、回数としてやはり多いのでしょうか。
藤野先生 そうですね。まず、8回という回数についてです。一般的に累積妊娠率という考え方があるのですが、人工授精で妊娠される方がだいたい100人いるとしたら、9割近くの方が5回目くらいで妊娠するといわれています。
そして、5回を超えた途端に妊娠される方の数は急に減っていきます。人工授精の回数が8回を超えると、次の治療方法も考えたほうがいいかなと思うのは、こういうデータがあるからです。
根拠がある数字なのですね。
藤野先生 そうです。では、なぜ回数を重ねてもうまくいかないのかということですが、 ※ピックアップ障害といって、卵管のピックアップ機能がうまく働いていない可能性が考えられます。
人工授精を5回以上やってもうまくいかない方は、卵管になんらかの機能障害があって排卵された卵子をピックアップできず、受精の機会がうまく持てていないということが多い。
そこで、卵巣から卵子を直接採取して受精させる体外受精が有効な治療になります。
人工授精で結果が出ない場合、体外受精へのステップアップは、不妊の治療であると同時に原因をよりはっきりさせる検査方法の一つと考えるとよいでしょう。
原因探しの体外受精
人工授精から体外受精と聞くと、何か高いハードルのように考えてしまいがちですが、不妊の原因を探るという意味もあるのですね。
藤野先生 精子と卵子が出会って、実際に受精するかどうか見てみることは一つの方法でしょうね。
受精を妨げる原因は大きく分けて3つあると思います。精子の力、卵子の質、そして卵管の機能です。この3つのうちのどこかに問題があって結果が出ないわけです。
ですから、どこに問題があるのか見つけ出すためにも、体外受精というのは大きな力を持っていると思いますね。
原因がはっきりすれば、治療の選択肢も広がるということですね。
藤野先生 はい。たとえば、卵管造影検査で卵管が通っていることが確認できた方にも、卵管の機能障害のある患者さんがたくさんいらっしゃいます。
たとえば ※クラミジアの感染によって、大きく卵管の働きが損なわれている場合などですね。
特に再感染を繰り返していて卵管の機能を担っている細胞が再生しなくなっているときは、その可能性が高い。
クラミジアの抗体の値が高いときは要注意です。
体外受精へステップアップ目安
先生のクリニックでは、「人工授精何回目で体外受精へ」というような目安がありますか?
藤野先生 一つの基準として、5回くらい人工授精を行って結果が出なければ、このような治療方法もありますよと体外受精のお話をさせていただいています。いわゆるステップアップですが、一概には決められません。
なぜなら、女性の年齢や、ご主人の精液検査のデータがあまりよくないなど、場合によっては3回目くらいで線を引かざるをえない場合もあるからです。
40 歳を超えた方に5回、6回と人工授精を繰り返すのは、時間的にもったいないと思いますし。
ただ、いろいろお話ししても、まだもう少し人工授精を続けてみるという選択肢を取られて、 10 回目で妊娠という方もいらっしゃいます。
やはり、ステップアップのタイミングは人によって違うのですね。
藤野先生 そうです。自然周期、人工授精、体外受精と、半年ごとにステップアップしていくのが不妊の一般的な治療法となっているのは、5回目、6回目で累積妊娠率が9割に達するというデータが根拠になっているからです。
5〜6周期の治療にはだいたい半年かかりますから。
今の治療を継続していくのも選択肢の一つですが、たとえば「5回目」というのを次の治療のきっかけと考えるのも一つの方法ではないでしょうか。
不妊の原因がどこにあるのか特定するのは非常に難しいこと。体外受精は不妊の原因をよりはっきりさせるための有効な治療、検査方法になりうると考えます。
※ピックアップ障害:排卵した卵子を卵管内に取り込む機能がうまく働かない状態。原因の一つに、卵子をピックアップする役割をもつ卵管采の癒着がある。
※クラミジア感染症:微生物であるクラミジアが原因となり、尿道、子宮頸管や卵管内に炎症を起こす性行為感染症。近年増加傾向にあり、不妊の原因の一 つともなっている。