【体験談】一つひとつ「手放す」ことは、 後悔しないために必要な決断でした。

 

がんばることを、やめたわけじゃない
一つひとつ「手放す」ことは、後悔しないために必要な決断でした。

「がんばる」ことで仕事の成果を積み上げてきたanneさん。でも、不妊治療は同じようには
いきませんでした。「足す」から「手放す」へ。必要だったのは、がんばり方を変えるという決断でした。

「もっとがんばる」では乗り越えられなかった

「35歳までに結婚したい」。そんな思いから婚活に励んでいたanne(アン)さん(42歳)は、34歳のとき、それまでつき合ってきたタイプとは正反対の年下のyくん(38歳)と出会いました。
穏やかな人柄や、家族を大切にする価値観に惹かれ、出会いから約1年で結婚。新婚旅行から帰ってまもなく妊娠が判明し、まさに幸せの絶頂かと思われました。
ところが、心拍確認後に流産。「妊娠したことも、流産したことも、何も心の準備ができないまま進んでしまって……」。経験したことのないできごとが一気に押し寄せたことで「早く妊活を始めなければ」という思いが強くなり、36歳で治療へと踏み出しました。
「彼はまだ、子どもよりふたりの時間を大切にしたかったんだと思います。でも、何も言わず、私の気持ちを尊重してくれました」
もともと生理周期の乱れが気になっていたanneさんは、検査で多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)が判明。タイミング療法、人工授精、体外受精へと治療は進みましたが、良好胚を移植しても着床の兆しは一向に訪れず、医師が「なぜ結果が出ないのか」と首をかしげる状況が続きました。

私に必要だったのは、"引き算"でした

大企業で管理職として働いていたanneさんは、不妊治療と仕事の両立にも苦しみます。周囲の理解や待遇には恵まれていたものの、役職への責任感や期待は大きく、「常に交感神経優位で戦闘態勢」。このままでは妊娠できないかもしれないと思うようになったそう。治療に専念するために休職しても、復帰後に行った移植は陰性の連続。最新の治療や検査、漢方、鍼灸、運動、食事改善――。妊娠につながると思えることは一つ残らず試しましたが、結果は変わりませんでした。
「何をしても結果が出ないなら、治療を続けるだけではダメなのかもしれない。私に必要なのは、足し算じゃなくて引き算なんじゃないかと思ったんです」
基本に立ち返り、基礎体温をつけてみるとガタガタに乱れたグラフ。自分では仕事も治療も全力でがんばれていたつもりでも、心身はバランスを崩し、限界を知らせていたことに気づきました。
仕事が悪いわけではなく、治療の選択も間違っていないはず。でも、今の体力では両立できないという現実も静かに受け入れられるようになりました。さらに、「どちらかが悪い」のではなく、「今の自分に合う選択」を考えるようになったのも大きな変化です。
「妊娠できなかったら、仕事を続けていたことを一生後悔する」「仕事の代わりはいても、彼との子どもを産めるのは私だけだ」と考えて会社を辞める決心をしましたが、実際に退職するまで少し時間がかかります。なぜなら、積み上げてきたキャリアと待遇、周囲からの期待、そして、何よりも全力でがんばってきた自分を手放すことは、人生で大きな決断だったからです。退職したのは2年後の40 歳。当時の気持ちを尋ねると、少し言葉を詰まらせながら「悔しさがなかったわけではなくて……。でも、後悔はありません。今振り返ると、よく決断したなと思います」と語ってくれました。そして、退職の当日、yくんが花束を用意して「今までお疲れさま」と迎えてくれたことも教えてくれました。
退職後もすぐに体調が戻ったわけではなかったそうですが、半年、1年とかけて基礎体温は少しずつ整っていき、自分の体と向き合う時間も増えていきました。

私たちだからこそ、支え合えた7年の日々

「彼は超健康体で何も問題ないんだけど、一度も私の体のことを責めたことはなくて。どんな結果でも『タイミングが来たら絶対にできる』と笑顔で言い続けてくれて、彼じゃなかったらこんなにはがんばれなかったと思います」
一方で、anneさんはあるとき、「治療の責任は半々だからね!」とyくんに伝えます。すると、その言葉をきっかけに「自分ごと」として捉えられるようになったyくん。治療のスケジュールを共有し、不安な日はそっとハグをして……。小さな変化の積み重ねは、ふたりの心の距離をさらに近づけました。
周囲が子育て中心の生活になるなか、自然と夫婦ふたりで過ごす時間が増えたことで、お互いが“親友”のような存在になれたことも新たな気づきだったようです。

「答えは一つじゃない」だから一人でがんばらないで

「闇雲に治療しても結果につながらない」と、年齢的な焦りを感じつつも治療を中断して体質改善に努め、41歳で再開。5軒目の転院先でPGT -Aを受けて正常胚を移植すると、治療開始から7年目でようやく着床しました。
「今回は大丈夫な気がする」。yくんは11回目となる移植から判定日までの間、何度もそう声をかけてくれたそう。「あとで理由を聞いたら、今までで一番リラックスしているように見えたからって(笑)」。
現在も妊娠継続中。まだ安心できる時期ではありませんが、「長年の壁だった着床を越えられたことが何よりうれしい」と笑顔を見せてくれたanneさん。仕事と治療の両立に全力で悩んだ末、「手放す決断をする」という選択にたどりついた彼女だからこそ、伝えたい言葉があります。
「がんばることは大切だけど、頑張り屋さんほど一人で抱え込まないでほしいです。足していくことだけが正解ではなく、私みたいに、一つずつ手放すことで前に進める人もいると思うので、自分に合った形を見つけて後悔しない選択をしてほしいです」
自分の意志で“大切にしてきたもの”の優先順位を決め、見つめ直してきたanneさん。その選択は、決して「がんばることをやめた」のではなく、自分に必要ながんばり方へと舵を切る決断でした。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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