てらさん(43歳)
今まで良好胚盤胞を移植しても着床しませんでした。過去に2回妊娠(心拍確認後の稽留流産)していますがいずれも人工授精でした。
1回目はクロミッド法、2回目は薬なしです。
人工授精1回目と4回目で妊娠したので、この時点での人工授精の成功率は50%とかなり高いほうだと思います。
私は本当に不妊なのでしょうか?
どちらも2021年のことなので、もうかなり年数も経っているため条件は変わっているかもしれませんが、私の場合は顕微授精よりも人工授精のほうが合っているのでは、と思うことが何度もありました。
年齢のことや超低AMHであることを考えると、やはり顕微授精を続けるべきでしょうか?
それとも、思い切ってステップダウンするべきでしょうか?
小川誠司先生に教えていただきました。
藤田医科大学 羽田クリニック 小川 誠司 先生
2004 年名古屋市立大学医学部卒業。2014 年慶應義塾大学病院産婦人科助教、2018 年荻窪病院・虹クリニック、2019 年那須赤十字病院産婦人科副部長、仙台ART クリニック副院長を経て2023年9月、藤田医科大学東京 先端医療研究センターの講師、2024年4月から准教授に就任。自費で最新の医療を受けられるという併設の羽田クリニックで患者さん一人ひとりの思いをかなえるべく診療も行っている。日本産科婦人科学会専門医。日本生殖医療学会専門医。
※お寄せいただいた質問への回答は、医師のご厚意によりお返事いただいているものです。また、質問者から寄せられた限りある情報の中でご回答いただいている為、実際のケースを完全に把握できておりません。従って、正確な回答が必要な場合は、実際の問診等が必要となることをご理解ください。
●検査歴や治療データを見て、どのような印象をもたれましたか?また、気になる点があれば教えてください。
最近のホルモン結果を拝見しますと、かなり卵巣機能が低下している印象です。すでになかなか卵胞が発育しなくなっており、卵巣機能不全(閉経に近い状態)になっていると考えられます。
●てらさんのAMH値やFSH値、年齢を考慮に入れた上で、顕微授精を続けることが最善の選択でしょうか?それとも過去の人工授精での妊娠成功率から顕微授精よりも人工授精が適している可能性はありますか?
以前に人工授精で妊娠されており、人工授精の方がご自身に合っているのではないかと思われるお気持ちは十分にわかります。ただ、人工授精で妊娠されていた4年前と現在では、てらさんの卵巣機能の状態は大きく異なっています。卵胞がすでに育たなくなっており、卵巣機能の低下が疑われます。通常であれば、卵胞が発育することで、子宮内膜が厚くなり、着床の準備が整っていきます。しかし、卵巣機能が低下すると、生理中でも卵胞が大きくなるなど、子宮の内膜が薄い状態で排卵してしまうことが少なくありません。そうなりますと、卵胞が育っても着床環境が整っていないために着床せず、せっかく育った卵子が無駄になってしまう可能性があります。したがって、てらさんの場合、卵胞が発育したら、まずは採卵して凍結し(あるいは、内膜とホルモンの状況が良ければ、新鮮胚移植も可能です)、できるだけ着床環境を整えてから移植されることをお勧めします。
現状を考えますと、人工授精へのステップダウンはお勧めしません。

●FSH値が高い周期が増え、卵胞が育たないなどの問題が発生しているのは、年齢や低AMHが影響していると考えられますか?
FSHの上昇は加齢による変化で、卵巣機能が低下していることを示唆しています。
●てらさんは過去に2回の稽留流産を経験していますが、これは現在の不妊治療に影響を及ぼしている可能性はありますか?
以前に流産されたことと、現在の卵胞が育ちにくい状況になっていることは関係がありません。一般的に流産率も年齢とともに上昇しますので、流産も現在の状況も加齢による変化と考えられます。ただ、着床されているということは大事なことで、妊娠歴のない方より、妊娠・出産される可能性は、流産歴のある方の方が高いと思います。●てらさんの卵管左閉塞について、手術を勧められなかったのはどのような理由が考えられますか?
年齢、AMH、またすでに体外受精を行なっておられることを考えての判断だと思います。卵管の手術は自然妊娠、あるいは人工授精の治療をするために必要な手術ですので、私も今のてらさんの状況を考えますと、卵管の手術は必要ないと思います。てらさんにとって、一番大切なことは卵胞が育つようにホルモン剤などの薬剤剤をうまく活用することです。加えて、低下した卵巣機能を改善させることはなかなか難しいですが、PRP(多血小板血漿)や、最近では間葉系幹細胞を利用した再生医療が卵巣機能改善のために不妊治療の分野でも応用されるようになってきましたので、選択肢として考えても良いと思います。後悔されないよう、いつまで、どこまで治療するか、ご夫婦でよくご相談されることをお勧めします。