今年1月、4年間続けてきた妊活にピリオド。私の命を流産した子が守ってくれた。今は二人の人生を選択して幸せです。

SNSで「妊活部」を立ち上げ、前向きに妊活を続ける様子を本誌や『プレジネコ』で紹介させていただいたまいさん。実は今年1月、治療をやめて夫婦二人で生きていくと決めました。その理由は……。

「お母さんになりたい」その一心で頑張った

まいさん(42歳)が、たかしさん(46歳)と結婚したのは2019年11月。すぐに妊活を開始したものの、1年経っても授からないので21年1月、不妊治療専門クリニックへ。16年間続けてきた保育士も辞めて治療に専念することにし、4月からは人工授精から顕微授精にステップアップしました。
「甲状腺とプロラクチンの数値が高いうえ、AMHが低いので採卵しても採れるのはごくわずか。凍結にいたらなかったり、移植できても陰性だったり。そういう一つひとつの結果がしんどかったです」

それでも頑張ることができた原動力は「我が子に会いたい、母親になりたい」という一心。まいさんは、卵に「たま子」と名づけ、わが子として訪れてくれることを願いながら、治療を続けました。

その思いが結実したのは23年4月。7回の採卵、7回目の移植を経て妊娠が判明。待ちわびていた瞬間がついに訪れたのです。

稽留流産と診断され、手術後も試練は続き

ところが喜んだのもつかの間、胎囊が小さく5週目で心拍が確認できず稽留流産と診断されます。まいさんは少しでも共に過ごすことができた「たま子」に感謝しつつ、流産の手術を受けました。

手術からわずか1週間後。流産に落ち込んでいる間もなく、さらなる悲劇がまいさんを襲います。

自身の病気が発覚したのです。この病気を治すためには放射線治療とホルモン療法が必要でした。早々に放射線治療は受けたものの、残るはホルモン療法。これを始めると妊活はしばらくできなくなります。
「主治医はあと1年ぐらいなら、妊活を優先して頑張ってもいいよと言ってくれました。でも、妊活をやめてホルモン療法を優先したい気持ちと、たま子に会えるまで不妊治療を続けたいと思う気持ちが揺れ動き、妊娠するのが怖いという気持ちも芽生えてしまいました」

葛藤しながらも10月には8回目の採卵を行います。結果は空胞でした。それでもまだ赤ちゃんを諦めきれず、ホルモン療法を始めることができずにいました。

そんななか、11月になり、以前から予定していた結婚式の日が訪れます。「入籍とほぼ同時にコロナ禍になったので、式を先延ばしにしていました。23年なら大丈夫だと思い、式場を予約していたんです。思えば23年は今までで一番つらいのと嬉しいのを繰り返した激動の1年でした」。

「やっとやな」。夫の言葉に安堵

不妊治療はやめる。まいさんがそう決意したのは24年1月9日のこと。年末からの採卵周期で少し卵胞があったので多少は期待もあったものの、育ってはいなかったことが区切りになりました。「不妊治療クリニックの窓から空
を見上げて、流産はたま子が命がけで私を守ってくれた証だったんだ。そのことを無駄にしたらダメやなって思ったんです。その瞬間、妊活はやめようと」
その場でたかしさんにLINEで「やめていい?」と聞きました。返ってきたのは「やっとやな」。そのひと言に凝縮されているたかしさんの優しさが、まいさんの心に沁みました。ふだんは無口で妊活に関してもまったく口を出すことはありませんでした。でも、ここぞという時にポンと、鬱屈した気持ちが弾け飛ぶようなポジティブな言葉をかけてくれるそうです。

「その翌々日、初めてホルモン療法の薬を飲んだ時もそう。私、泣きながら一度口に入れた薬を『やっぱり無理』って口から出したんです。その時、『感傷に浸っていてもしゃあないやろう』と背中を押してくれて。おかげで何か吹っ切れるものがあり、薬が飲めたんです」

愛犬そるが二人の生活を彩ってくれる

妊活をやめると決めて約10カ月。「正直、まだ気持ちが揺れることもあります。妊活を続けている人はほんとすごいなあと思いつつ、うらやましかったりもしますし」

そんな自分の気持ちに正直に向き合いながら、決して無理をせず少しずつ前へ進んでいるまいさん。今年4月から仕事も再開しています。ただ、「子どもと向き合うのはまだしんどい」ので前職の保育士ではなく販売職を選択。環境を変えたくて引っ越して、ミニチュアダックスフンドを飼い始めました。

「名前はそるです。二人で食事やうんちの世話をしたり笑ったり。会話も以前より増えました」
実は昨年の結婚式でたかしさんはこんなスピーチをしたそうです。「これからも壁にぶつかる時はあると思います。今までも何度もぶつかってきましたが、そのたびに二人で笑い飛ばして乗り越えてきました。これからも笑顔を大切に生きていきます」と。この言葉にたかしさんの思いが全部入っている気がして心底うれしかったそう。
「ダンナも妊活でつらい思いをしたのに、こんなふうに言えるのはすごい。そんなダンナが居てくれる私は本当に幸せですよ。時折、苦しくなったりするけれど、実際、笑顔にしてたら楽しいって思える日がどんどん増えています」

もちろん、4年間、妊活を続けたことにまったく後悔はありません。「こんなに頑張ったことはなかったし、めっちゃしんどかったけれど、小さな幸せに気づけるようになったし、妊活をしたからこそ得られたものもたくさんあったから」
最近、SNSで「二人でも笑っていたい部」を作りました。「夫婦二人で生きる選択をした人はもちろん、治療中の人も入ってくれてます。こういう場があるだけで気持ちがラクになるからって」
妊活中の人たちには納得いくまで頑張ってほしい。ただ、一方で「二人でも幸せな道は開けていくことも忘れないでほしい」とまいさんは最後に話してくれました。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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