約4000人に1人の抗体 不妊治療6年間で育んだ夫婦の絆。
仕事と子ども。何が最良の選択なのか? 人生のプライオリティについて、とことん考え続けた6年間の不妊治療期間。試合前のボクサーとセコンドのようなストイックさで、夫婦二人三脚で挑み続けた不妊治療。
結婚1年目で始めた治療仕事と治療の両立の難しさ
一目ぼれで「運命の出会い」だったと話すちょろこさんご夫婦(30代)は、3年間のお付き合いを経てゴールイン。結婚してすぐにタイミング法で妊活をスタートします。
「前の職場で不妊治療をしている先輩がいて、職場に報告しないと休みが取れないような状況でとても大変そうでした。その姿を見ていて、私は年齢的にはまだ焦るほどではなかったのですが、もし自分が結婚してすぐに授かれないようであれば、早めに不妊治療を始めようという気持ちが結婚当初からありました」
住んでいる土地柄、選択肢が少ないという理由で、クリニックは「通いやすさ」で選びました。不妊治療の情報は常にインターネットで収集をして、タイミング法を3回しても妊娠しない場合は次のステップに進むことを推奨されていたので転院を決意します。しかし、7回人工授精をしましたが妊娠には結びつきませんでした。
「私が治療をはじめた頃は治療費が全額自己負担でした。保険適用がないことが次の治療ステップに進むのに時間がかかった理由の一つではあります」
さまざまな葛藤を乗り越えて、顕微授精にステップアップして5回目で妊娠することができましたが、残念なことに8週目の検診で心拍が確認できなくなり、稽留流産と診断されました。
このつらい経験をきっかけに、ちょろこさんは人生のプライオリティについて改めて考え直し、不妊治療を優先するために、約10年間働いたやりがいのある職場を辞めることを決意します。
11回も繰り返した採卵不妊の原因が私で良かった
転院先は県内でも体外受精の成功率が高いクリニックを選びました。顕微授精にステップアップしても良い結果が得られないので、さらに検査で調べてみると抗セントロメア抗体という4000人に1人の抗体をもっていることが判明。この抗体をもっていると、受精卵になりにくいうえ、胚盤胞にもなりにくいので、採卵を11回繰り返し、移植は7回行いました。採卵を11回も繰り返すことによる肉体的・心理的負担をどのように乗り越えたのでしょう。
「正直、人工授精をしている時は、夫婦喧嘩が多かったんです。その時は夫・ちょろ助の精子の運動率が悪かったので、夫に責任があるみたいな雰囲気になっていました」
ちょろこさんは、自分に負い目を感じているちょろ助さんにプレッシャーを与えてはいけないと考え、治療の愚痴を一切言えない状況に陥ります。しかし、治療の負担が態度に出るようになり、夫婦喧嘩に発展してしまうという悪循環が起こりました。そんななか、転院後の検査で、ちょろこさんが抗セントロメア抗体をもっていることが判明。
「実は“私に原因があること”にとてもほっとしたんです。なぜなら私が、頑張ればいいだけなので…。そういう気持ちの変化があってからは、夫婦の関係性は良くなっていった気がします」
お互いの痛みもわかり合えたからこそ6年も不妊治療を頑張ってこられたと、ちょろこさん夫婦は振り返ります。
夫婦二人の人生を選択しようと思った2回目の流産
料理が得意なちょろ助さんとお酒が大好きなちょろこさん。採卵後には大好きなラーメンを食べに行ったり夫婦でキャンプを楽しむ日々。上手に息抜きしながら二人三脚で進めてきた不妊治療ですが、さすがに2回目の稽留流産の時は想像を絶するつらさでした。
「その時は本当に子どもを諦めようと思ったんです。夫に電話をして私が『もう、頑張れないかもしれない』と伝えたら、『もう、頑張らなくていいよ。これ以上、ちょろこのつらい顔を見たくない』と言ってくれて涙があふれました」
不妊治療について発信しているYouTubeの視聴者さんたちがたくさんの励ましのコメントをくれたことで、治療を諦めようとしたちょろこさんは気持ちを徐々に立て直していきました。
さらに視聴者さんから「先進医療B による着床前胚染色体異数性診断(PGT -A)」をすすめられたことで大阪のクリニックに転院をし、治療再開することを決意します。
誰かに役立つことを願ってのYouTube配信
転院し、自宅から片道12時間通院を頑張った結果、念願の妊娠。現在は安定期に入り、心身ともに充実した日々を送るちょろこさん。不妊治療を配信していたYouTubeチャンネルでは、視聴者さんに役立つ情報を届けることができればと、6年間にわたる治療の振り返り等を発信しています。
「稽留流産を2回経ての妊娠で安定期に入った今、本当の意味で嬉しさがこみあげてきています。夫婦の会話にも、子どもと一緒にキャンプがしたいね!という話題が出てくるようになりました」と笑顔で話すちょろこさん。抗セントロメア抗体をもちながら妊娠した軌跡、夫婦の関係、妊娠に近づくためにやってきたさまざまな工夫を丁寧に綴った配信は、登録者数一万人超えの人気チャンネルとなっています。
現在、困難な原因の不妊治療でつらい思いを抱えている人たちにとって、前を向く原動力になるかも知れません。