・38歳、採卵数3個、全てが卵質不良で受精しなかったそうです。原因はどんなことが考えられますか?
卵質不良で受精しなかったとのことですが、体外受精を行って受精しなかった場合、採卵された時点で卵子がまだ未熟だった可能性が高いと考えます。もし顕微授精を行っても未受精だった場合は、卵質の低下により顕微授精の機械的な刺激が卵子の変性に繋がった可能性や、一見成熟しているように見えても十分な減数分裂が完了していない未熟性によるものなどが考えられます。まれに顕微授精をしてもかなり受精率の悪い受精障害も存在しますが、これまでの妊娠歴や治療歴などからは、それは考えにくいです。
この方の印象としては、卵巣刺激に用いた注射の投与量が足りなかったことをまず考えた方がよいのではないか?と思います。これにより全体的に卵子の成熟不良がおきていると考えられます。
・卵巣刺激を工夫することで、採卵時の未熟卵や変性卵、空胞などを減らすことができるのでしょうか?
おそらく卵巣刺激が適切に行われていなかった可能性があります。保険診療の可能な範囲で、卵巣刺激の経過中のホルモン値をしっかりとモニタリングしながら、適切なタイミングでHCGやGnRHアゴニストでのトリガー(卵成熟)を行う必要があります。成熟度が悪い場合にはHCGとGnRHアゴニストを同時に使用してトリガーする方法もよいかもしれません。
・アンタゴニストで採卵成績が良くない場合、先生であればどのような卵巣刺激を勧められますか?
卵巣予備能が低くなってしまい、基礎のFSH濃度が高い場合には卵質が低下している可能性がるので注射を開始する前にエストロゲン製剤やLEP製剤などで少し調整してから刺激を開始する事も考慮するとよいと思います。アンタゴニスト法が悪いと決めるよりは、適正な量のFSHで刺激できていたのか?について考えてみる必要があるかもしれません。体重や体脂肪(皮下脂肪)のつき方などによっては、思った以上に血中FSH濃度は低い可能性があり、反応不良により卵の成熟不良を起こしていた可能性もあります。また、一方でFSHによる刺激を強めに使い続けると、P4が上昇し、卵質も低下してくる可能性もありますので、モニタリングには細かい配慮が必要です。アンタゴニスト法はこの辺りの十分なモニタリングができないと、症例によっては思ったような成績が出ないこともあります。AMH:1.22ng/mlからはshort法に切り替えてもいいかもしれません。
・日常生活で卵子の質が良くなることはあるのでしょうか?自分でできることがあれば教えてください。
35歳を超えてきたらアンチエイジングサプリメント(ビタミンCやビタミンEなど)の摂取を開始してもよいと考えています。
食事においては一口一口、よく噛んで(30回は噛みましょう)、過剰に食べすぎず、また日常的にしっかりと水分をとっていくようにします。
毎日、タンパク質や良好な脂質を十分に摂取し、彩り良く食物繊維を取り入れ、糖質に関しては急激な血糖値上昇を招くような食べ方を慎むことも必要です。
朝食をしっかり摂り、朝のうちに少し日光を浴びて意識的に体を動かし、夜は早めに休んで十分な休養をとって体を休ませる事は、不妊治療を継続的に行う上でのメンタルの安定から、さらには卵質改善にもつながると思っています。
オフにはリラックスして過ごせる時間を作り、日々健康を感じられると、自ずと妊娠力はアップしてきます。もちろんこれらを夫婦で行う事で、精子の質の向上にもつながると思います。
(余談ですが、パートナーにも、週に2~3回程度の射精頻度を持っていただく事で、受精卵の質の改善にもつながる可能性があります。)