正常胚でうまくいきません。残りの胚はグレードが低く再度採卵したほうがいい?着床不全や不育症など考えられる検査と治療を行い、着床前診断後の正常胚を移植してもうまくいかないまーぼさん。残りの胚のグレードも低いのですが、もう一度採卵したほうがいいのでしょうか。田村秀子婦人科医院の田中紀子先生に教えていただきました。
ドクターアドバイス
●子宮内膜の機能が低下しているのかも。
●採卵を優先し良好胚をつくりましょう。
●着床効果を高めるPRP 療法もありま
子宮内膜の機能が低下し着床しにくいのかも
着床前診断で正常胚を移植してもhCGが下がり、妊娠しないのはなぜでしょうか?
田中先生●良好胚を移植しても着床しにくい、または着床しても化学流産を繰り返す着床不全や不育症の人は、当院にもいらっしゃいます。珍しいケースではありませんが、ご本人はつらいですよね。私たちも考えられる原因を一つずつクリアにして、次の検査や治療を提案せざるを得ないのが現状で、悩ましい症例の一つです。
おもな原因としては、子宮内膜の着床時期のズレ、免疫機能の低下、子宮内膜炎などがあげられます。また、年齢が高くなるにつれて子宮内膜が薄くなり、着床能が低下して着床しにくいことも考えられます。
採卵を優先し良好胚になれば妊娠の可能性もあります
38歳で採卵した4CCと、40歳で採卵した2Gのグレードの胚が残っているそうです。次は採卵から始めたほうがいいでしょうか。
田中先生●まーぼさんは保険適用の期間が残り少ないですし、着床前診断はあまり考えていないとのことですね。残りの胚の状態は良いとはいえませんので、まずは採卵を優先されてはどうでしょうか。AMHは高く卵巣機能も維持されているようなので、42歳でもグレードの良い胚ができる可能性はあります。良好胚に出合えれば、妊娠は期待できると思います。
ただ、どれだけ見た目がきれいな胚(良好胚)でも正常胚(染色体数に異常がない胚)の確率は10%程度とされています。年齢が高くなるにつれて、正常胚の確率が低下することも考えておきましょう。
子宮環境の改善が期待できるPRP療法を試すのもあり
ほかにもできる検査や治療はありますか?
田中先生●現時点で考えられる検査と治療はほとんど受けられていると思います。本当に努力されていますね。hCGの数値は毎回上がるのに胎囊が見えないのは、胚が子宮内膜に根を生やして着床するために必要な「何か」が、あと一歩のところで不足していたり、影響しているのかもしれません。でも、その「何か」は細胞レベルの炎症の有無、サイトカイン(活性物質)や成長ホルモンの不足など、現代医学でまだ解明されていない原因の可能性もあります。
そこであえて提案するとすれば、近年注目されているPRP(多血小板血漿)療法でしょうか。自分の血液から採取・濃縮した血小板を各部位に注入する再生医療の一つで、すでに整形外科や美容外科などで広く行われています。近年は不妊治療の分野でも子宮や卵巣への効果が期待されています。この濃縮された血小板には豊富な成長因子が含まれていて、子宮内膜の組織の修復や細胞を活性化し、子宮内膜環境を改善する働きがあるといわれています。たとえば、子宮に対しては、月経周期12日目前後に子宮内に1~2回注入し、その後胚移植を行います。実際に子宮内膜が薄い、血流が悪い、着床しにくい人への着床率の改善や妊娠の維持など、良い結果が報告されています。まだエビデンスの蓄積が少ないことや、自費診療で費用が高く、治療を受けられる施設も限られてはいますが、試されてもいいかもしれません。
妊娠は、受精卵と子宮内膜の状態、そのほかの条件が揃って初めてうまくいきます。妊娠については、科学ですべて解明されているわけではありません。また科学でわかりにくい部分、特に精神的な部分との関係も未解明ですが、大きいように思います。もし精神的に追い詰められ、不安な気持ちで臨んでも、決して妊娠にプラスの方には働きませんよね。
まーぼさんも、医師や施設のスタッフと今まで築いた信頼関係を大切に、不安なことは対話しつつ、再度、採卵からチャレンジされるといいかな、と思います。