不妊治療約2年、一度も着床しない

不妊治療をはじめて約2年。体外受精に3回トライしてものの、一度も着床しない場合、考えられる理由と今後の治療についてさくら・はるねクリニック銀座の宮本敏伸先生に教えていただきました。

宮本敏伸先生(さくら・はるねクリニック銀座 院長)旭川医科大学医学部卒業。同大学大学院医学研究科卒業。医学博士、米国NIHで4年間研究に従事した後、旭川医科大学病院産婦人科助教、講師、北海道大学大学院医学研究科准教授、獨協医科大学医学部産婦人科准教授を経て2022年5月にさくら・はるねクリニック銀座の院長に就任。妊娠させることだけでなく、患者さんの立場にたってその先の出産、産後のことも考え、親身になってアドバイスをしてくれる。
相談者:みみさん(29歳)AMH1.77。今まで保険適用内の体外受精に3回トライ。1,2回は着床せず。3回目は胚盤胞2個を移植して期待していたものの、判定日前に生理がきてしまいました。着床すらしていないようです。デュファストン服用中でしたが、体温も下がりました。着床不全の検査は受けたところ、慢性子宮内膜炎が少し陽性だったため、薬で治療。血液検査はth1/th2比が16と異常な数値だそうです。3回やっていずれも着床しないのはどんなことが原因だと考えられますか。また今後受けた方がいい検査がありましたら、お教えください。

不妊原因は不明とのことですが、AMHが低値なことは理由になりますか

AMHが1.77ということですが、これは39~40歳に相当する数値です。29歳ということを考えると、AMHは低いといえます。ただし、AMH=妊娠率では決してありません。例えばAMHが1.77と同じ値であっても40歳と29歳では状況がは大きく異なります。

子宮は「年をとらない」といわれておりますが、卵子は胎児期に作られ、その後新たに作られることはないため、年齢が上がるとともに卵子の質も低下していきます。AMHからは卵子の在庫があとどのくらい残っているかの予測は可能ですが、その残っている卵子の質が良いのか、すなわち妊娠、出産できる卵子があとどのくらいあるのかはわかりません。このことから考えると29歳でAMHが1.77だとしても卵子の質は良いと思われるため、高刺激で数多く採卵し、良好胚盤胞(3BB以上)を凍結保存し、ホルモン補充周期で融解胚移植すれば妊娠できる可能性は高いと考えられます。黄体補充は膣剤のほうがよいでしょう。

今後はどのような治療や検査を提案されますか。

「慢性子宮内膜炎が少し陽性だったため、薬で治療」とありますが、慢性子宮内膜炎は反復着床不全を引き起こす可能性があるため、きちんと治癒したかを確認することが大切です。子宮鏡で一度子宮内をチェックしてもらうのがいいでしょう。

また「Th1/Th2で異常な検査データが出た」とあります。このTh1/Th2とは、体にウイルスや細菌などの異物が侵入してきたときに戦ってくれる細胞です。

通常、妊娠すると、胎児や胎盤を攻撃するTh1細胞が減少し、Th2細胞がが優位になります。それに対してTh1細胞が増えたままだと受精卵や胎児を異物として排除し、着床不全を引き起こしやすくなります。Th1/TH2の比が10.3以上の場合は、タクロリスムという免疫抑制剤を服用することで、着床率を改善することが可能です。

また甲状腺機能の検査もしておくといいでしょう。甲状腺機能異常があると、受精率や妊娠率、着床率などが低下する傾向にあります。

近年、FT3, FT4が正常値であってもTSHが2.5mIU/L以上の「潜在性甲状腺機能低下症」でも、不妊症、流産、早産などが関与し、潜在性甲状腺機能低下症を放置したまま治療し、妊娠した場合、胎児への甲状腺ホルモンの移行が不足すると、出生した児の知能に影響し、IQが低下する可能性があると報告されています。よって、不妊治療を開始する前に甲状腺疾患は治療しておくことが肝要です。

体外受精の胚移植を行っても2回以上不成功、もしくは連続して流産してしまった場合、PGT-A検査の対象となります。PGT-Aとは、着床前胚染色体異数性検査といって胚(胚盤胞)の染色体数を移植前に調べる検査です。正常(A判定)の場合母体の年齢にかかわらず妊娠率は70%、流産率は10%程度とされており、有効な治療法の一つです。しかしながら、この検査を行ってから胚移植する場合、その周期に行う採卵や移植などすべての治療は自費診療扱いになるのでご注意ください。

25歳から30歳で2回良好な受精卵を移植した場合の累積妊娠率は、69.8%にのぼります。3回移植では実に83.4%です。よって、当院では2回移植しても妊娠が成立しなかった場合は、原則やみくもに3回目の胚移植は行わず、反復着床不全の原因を精査します。精査した結果、必要であれば追加の検査を行い、保険適用の6回の移植までに妊娠、出産をめざしています。

上記の「追加検査」が保険適用外の検査の場合、その周期はすべての治療費が自費になってしまうのでしょうか。

一部の自費の検査や治療は「先進医療」に認定されております。たとえば採卵後、受精卵が分割していく様子を培養器からとり出さずに確認できる「タイムラプス」や、子宮内の細菌叢が正常であるか、受精卵を着床させて育むのにふさわしい菌の組成になっているのか、などを調べる「子宮内フローラ検査」などが先進医療に認定されていますが、これらは保険診療の体外受精と組み合わせても「先進医療」分だけが自費で、それ以外は保険適用の金額で治療を受けることができます。

そのほかアドバイスがありましたらお願いします。

受精卵を3回戻しても着床していないのであれば、一度立ち止まって、何か妊娠しない原因が隠れていないかを検索することが大切です。慢性子宮内膜炎が治っているのか。Th1/Th2の比率をバランスよくするためにタクロリスムを服用するなどのほかに、着床の窓が合っているのか(ERA検査)も確認するといいかもしれません。

年齢も29歳とまだ若く卵子の質も良いと思われるので、今後大いに赤ちゃんを抱ける可能性は高いと思います。主治医の先生にわからないことは何でも相談しながら治療を進めてみてくださいね。

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不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。