多くの病気を抱えながら不妊治療をしています。
今後の治療方針は?
がんや婦人科系疾患、自己免疫疾患など、持病を抱えながら不妊治療に臨んでいる人もいると思います。それに加え高齢という条件が重なった場合、どのような治療方針を立てていけばいいのでしょうか。大島クリニックの大島隆史先生にお話を伺いました。
ドクターアドバイス
●持病があっても妊娠することは可能です。
●胚盤胞ができるまで移植より採卵を優先
採卵前の黄体ホルモン上昇は逆に妊娠率低下につながります
筋腫手術後、黄体ホルモンの数値が上がるようになったそうですが、これは以前より妊娠・出産の可能性が高まったと考えられますか?
大島先生●黄体ホルモンの数値が上がっている=状況が良くなっている、という解釈は少し違うと思います。いつ計測したものなのかわからないので何ともいえませんが、この様子だとおそらく採卵の前に黄体ホルモンの数値が上がっているということではないでしょうか。
そうであれば移植しても逆にうまくいかない可能性があります。採卵の前に黄体ホルモンの値が1.5ng/ml以上あると妊娠率がかなり下がりますので。
ゆかりさんは黄体ホルモンの数値を気にされているようですが、凍結胚移植周期の際は黄体ホルモンを腟剤などで補充しますから、あまり気にされることはないと思います。
この方はさまざまな持病を抱えていらっしゃるようですが、それが不妊治療や妊娠に影響することはあるのでしょうか。
大島先生●まず、2014年に甲状腺乳頭がん(リンパ節転移あり)が見つかったそうですが、その後手術や放射線治療を行って寛解状態にあるということ。すでに治療が終わっているので問題はないと思います。
ほかに自己免疫疾患である全身性エリテマトーデス(SLE)や抗リン脂質抗体症候群などもおもちだそうですね。SLEはおそらく内科でコントロールされていると思います。抗リン脂質抗体症候群は流産の原因になることがありますが、これもワーファリンRなどのお薬で対処されているようですから、これらの病気による影響はそれほど心配されることはないと思いますね。
病気があるからというより、年齢が高いというのが不妊の一番の原因だと考えられるのではないでしょうか。
実はご主人も難病指定の腎臓病に罹られていて、今回の採卵で提出した精液の中に血液が混ざっていたそうです。
大島先生●腎臓病の影響であれば泌尿器科で尿を調べればすぐわかると思います。
当院でも時々精液に血液が混ざる患者さんがいらっしゃいますが、たいていは血精液症であることが多いですね。精巣でつくられた精子が精管を通って前立腺と精囊という器官に入ると、そこから精液の液体部分が分泌されます。血液が混ざるとしたら、その部分に何か問題があるのかもしれません。
精液に多少血液が混ざったとしても、精子だけを取り出す顕微授精なら問題なく実施できるでしょう。
良好な胚盤胞ができるまで移植より採卵の優先を
今後どのような治療方針を立てていったらいいのでしょうか。
大島先生●過去3回の採卵はクロミッドR+注射による刺激を採用されたようですね。平均して4~5個の卵子が採れたそうです。直近4回目の採卵では、刺激の前からブセレリンの点鼻薬を使っているようですから、おそらくロング法でトライされたのではないでしょうか。
ゆかりさんのAMH(抗ミュラー管ホルモン)の値は1・05ng/mlとのこと。このくらいの値だとロング法のような高刺激をしてもそれほど多くの卵子は採れないのではないかと思います。期間が長引くロング法より、アンタゴニスト法やデュファストンRのようなお薬を飲むやり方のほうがこの方には適しているような気がします。
卵子が採れたらできれば胚盤胞になるまで培養する。保険診療では移植には回数制限がありますが、採卵にはありません。すぐに移植をせず、良好な胚盤胞ができるまで採卵を続けていったほうが妊娠する確率は上がるのでは。妊娠の可能性はありますから、年齢制限ぎりぎりまで頑張っていただきたいですね。