お話を伺った胚培養士さん
一日のお仕事の流れを教えてください。
朝出勤後、着替えを終えると培養室に入り、前日に採卵した方の受精確認をします。その後8時より人工授精の持ち込みがスタートします。午前中は受精卵の観察や凍結、凍結融解胚移植を行う予定の凍結胚の融解、ご主人様の精液を検査・調整したりします。昼休憩後は体外受精や顕微授精の他、受精卵を子宮に戻す胚移植を行います。夕方、翌日の採卵や受精卵融解の培養液の準備をして退社です。当院では4人の胚培養士が当日の業務内容に応じて分担して対応しています。
精子や胚の状態をどのように観察、チェックしているのでしょうか。
精子の液量、運動性や濃度を目視で計測するのに加え、SQAという機器で測定し、人工授精用や体外受精・顕微授精用に調整します。顕微授精の時には、形態を確認して卵の中に入れる精子を選びます。ご希望の方には、IMSIを行うことができます。IMSIは、普段の顕微授精よりも高倍率で精子を観察することにより、精子頭部の空胞などを見ることができ、より詳細に精子の形態を観察することが可能です。
採卵した卵の受精確認や培養中の卵を観察します。分割胚や胚盤胞の形態などを評価して、胚移植可能な胚(受精卵)は凍結保存します。顕微授精の場合、ご希望の方には専用の顕微鏡を用いて紡錘体を観察することができます。これにより、紡錘体を傷つけることなく顕微授精が可能となります。紡錘体は、遺伝情報である染色体を均等に分配する重要な役目を持ちます。
胚培養士として心がけていることは?
一番大事なのは、取り違えをしないこと。当院では胚培養士同士でダブルチェックするのに加え、個人認証のバーコードでの確認を行ってトリプルチェックをしています。卵に対し愛情をもって丁寧な仕事をし、卵に与えるダメージを最小限にするよう心がけています。
当院の培養士が患者さまに接するのは、採卵と移植の本人確認のときのみです。そのため患者さんが緊張せず不安に思わないように、明るくご挨拶するように努めています。私たちが患者さんと接しない代わりに、医師や看護師としっかりと連携することで情報共有を行っています。
培養部の雰囲気はどんなですか?
卵を扱っているという緊張感やプレッシャーはもちろんありますが、当院の培養部は雰囲気がよいと思います。休憩時など他愛のない話をするなど、ほっと一息でき、ストレスを感じにくい職場ですね。
胚培養士のやりがいはどんなところでしょうか?
学生時代にマウスを使った顕微授精の研究をしていて生命誕生の不思議に魅力を感じたことが培養士を目指したきっかけです。大学で学んだことをいかして誰かの役に立ちたいと思い、培養士という仕事を選択しました。この仕事のやりがいは、自分が関わった卵がきれいに育ってくれたとき、また当院を卒業された患者さまから「無事に産まれました」「ありがとう」とお手紙やお写真をいただくときはうれしく、とても感動します。命を繋ぐ仕事なのだとあらためて実感します。
最後に読者や患者さまへメッセージをお願いします。
当院では医師を含め、スタッフ全員で患者さまをサポートさせていただきます。患者さまからお預かりした卵や精子を大切に、そして丁寧に取り扱いしていますので、安心して治療に取り組んでいただきたいと思います。