胚培養士とはどんな存在?ラボが備えるべき条件は?

新たに作成された「生殖医療ガイドライン」には培養室に関しても言及が。
どんなラボが理想的なのか、浅田レディースクリニックの浅田義正先生に伺いました。

浅田レディースクリニック 浅田 義正 先生 名古屋大学医学部卒業。1993年、米国初の体外受精専門施設に留学し、主に顕微授精を研究。帰国後、日本初の精巣精子を用いた顕微授精による妊娠例を報告。現在、愛知県の名古屋駅前、勝川、東京・品川にクリニックを開院。著書に『不妊治療を考えたら読む本』(講談社)など多数。

胚培養士は医師の右腕となる存在。徹底した教育システムが必要です

僕自身、以前は胚培養士の仕事もすべてやっていたので、受精卵の培養技術にはこだわっています。胚培養士は医師の右腕となる存在。レベルの高い生殖医療を提供しようと思ったら、優秀な胚培養士を育成することは不可欠です。

当院では新卒のスタッフを3年から5年かけて胚培養士として育てています。原則、中途採用はありません。ブロンズからダイヤモンドまで5段階のステイタスに分類しており、スタート地点である一番下のブロンズは胚の凍結融解の技術試験に合格して、臨床でそれをきちんと実践することができるレベルです。

シルバーはICSIの技術試験に合格し、顕微授精を実施できます。この段階になると育成プログラムを終了して、下のスタッフに技術指導もできます。ゴールドはICSIなどを経験して10年。そのうえでラボの品質や技術の向上、情報発信のマネジメントができるレベルがプラチナ。それらを20年積み重ねるとダイヤモンドになります。

当院では院内でそのようなシステムを作っていますが、不妊治療を扱う施設に共通したものはありません。治療のレベルをさらに上げていくためには、きちんとした胚培養士の教育・認定システムを構築していくことが必要だと思います。

2022年の春から不妊治療に保険が適用される流れになっていますが、本来、保険医療は国家資格を保有していないと提供できないことになっています。胚培養士は国家資格ではないので、そこがどうなるのかまだはっきりしていません。国家資格にするのか、もしくは前述したような共通の認可システムを作って利用していくのか、早急に検討が必要だと思います。

最高の培養環境を生かすには最高の胚培養士が必要

先日、日本生殖医学会が発表した『生殖医療ガイドライン』には、HEPAフィルターや記録・管理体制、緊急時バックアッププランなど、培養室の備えるべき条件も明記されていました。

もちろんこれらの条件は培養室にとって重要です。当院では特にリスクマネジメントを徹底しており、設備投資もかなりしています。例えば、培養室にある機械は、1台が故障してもお預かりしている受精卵に影響が出ないように2台同じものを用意しています。

すべての業務を2人でチェックし、顕微鏡はモニターで見えるようになっています。万が一、担当しているスタッフが操作を失敗した時は、それをもう1人のスタッフがモニターで見て確認することができます。

災害などによる停電に備えるため培養室の裏には巨大な非常用バッテリーもあります。すべての培養器にはアラームが備えられており、夜間でも異常があればスタッフにすぐ連絡がいくようになっています。当院の培養室はガラス張りになっているので、患者さんもこのような体制や設備を見ると、安心できるのではないでしょうか。

培養室を最高の環境にすることは大切ですが、いくら良い機器を設置してもそれを使いこなせる技術や意識の高い胚培養士がいなければ意味がありません。やはり最後は人材なのだと思います。

タイムラプスは培養技術の一部。レベル付けには疑問があります

タイムラプスインキュベーターの設置は今回のガイドラインでは推奨レベルCになっています。受精卵は酸素濃度の変化などに敏感です。初期の不妊治療では大きな冷蔵庫のようなもので複数の患者さんの受精卵を培養しており、チェックのたびに出し入れしていました。それが個室にするなどなるべく器内の環境を変えないように工夫され、現在は中にカメラを設置し、受精卵を培養器に入れたまま観察できるタイムラプスという形に進化しています。

成績向上にもつながっていくとは思いますが、タイムラプスはラボの一部であり、培養の技術ではあっても、新しい治療ではありません。これに個別のレベルをつけるのは疑問があります。確かに現状ではタイムラプスは優れた技術ですが、培養に関してはまだまだ発展途上の段階。これからもっといいものに変わっていかなくてはいけないとも思っています。

培養技術の向上には胚培養士の育成が欠かせない

胚培養士の育成には最低でも3~5年かかります。

どんなに培養室の設備を整えてもそれを扱える人材がいないとダメ。

タイムラプスは培養技術の一部。レベル付けするものではない。

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

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