「基礎体温が高いと着床しない、しても流産の可能性がある」と告げられたさやさん。基礎体温の高さと不妊の関連はあるのでしょうか。また、基礎体温が高くて低AMHの場合、どんな治療法がベストなのでしょうか。池下レディースクリニック吉祥寺の矢野直美先生に教えていただきました。
2022年7月より名称が「花みずきウィメンズクリニック吉祥寺」に改称。
さやさん(36歳) 現在治療歴半年〜1年で、不妊外来でのタイミング法と漢方薬局での処方による漢方治療をしています。基礎体温が高く(低温期36.5-36.7度程度)、高温期は37.1-2度まで上がることがあり、漢方薬局の薬剤師さんからは「基礎体温が高いと着床しない。しても流産の可能性がある」と言われ、まずは漢方で体を整えることを勧められました。不妊外来の先生は「そのようなことはない」とのことで、意見が分かれています。AMH1.61と低く、年齢的にも人工受精へのステップアップを先生からは勧められています。
基礎体温が高いことを気にしていますが、どう思われますか。
人それぞれ基礎体温は異なります。基礎体温が高めだと妊娠率が低い、あるいは流産率が高いというはっきりとしたエビデンスはありません。
基礎体温は、低温期と高温期が0.3度以上差がある二相性かどうをみます。高温期が1週間程度しかない場合は黄体機能不全が疑われます。基礎体温はその日の室温や前日の就寝時間、アルコール摂取の有無、どんな過ごし方をしたかなどで簡単に変動しますし、体温がその日の黄体ホルモン値を必ずしも反映していません。また、体温がカクンと下がった日が排卵日と矢印をつけた図を見ることがありますが、確実にその日に排卵しているとはかぎらず、低温期の終わり頃に排卵していたり、体温が上昇している途中の場合もあります。振り返ってみたときに「完全に高温になったから排卵が終わった」とわかる参考にはなります。
漢方薬局の薬剤師さんと主治医の意見がわかれています。
漢方薬局の方は「体温が高いと着床しない、しても流産する」と言い、不妊外来の医師は「そんなことはない」と意見がわかれているとのことですが、発言の重みを均等に受け止めていることが気になります。医学論文に書かれていることでも、十分検証されててるエビデンスレベルが高いものと、まだまだ十分でないものとあります。誰かがそのようなことを言っていたレベルのことを、確かなことのように話されているかもしれません。
AMHの数値から、先生ならどのような治療の流れを提案されますか?
AMHは卵の質ではなく数の目安であり、自然妊娠しやすいかどうかの指標にはなりません。若い方で、AMHが低いけれど急速に低下し続けているわけではない方の場合、通常通りに治療を進めます。30代後半以降で加齢による低下が急速に進んでいる方の場合は早めのステップアップをお勧めしています。
AMH値が年齢平均以上だったとしても、治療開始から半年以上経って結果が出ないのならステップアップを考えます。不妊原因には基本的なスクリーニング検査ではわからないものもあります。人工授精、さらに体外受精とステップアップすることにより、卵子のピックアップ障害・受精障害・卵の質の問題・着床障害など、さまざまな要因がみえてくる可能性があります。そのひとつひとつをつぶしていくという意味合いからも、適切な時期にステップアップをすることが大切ですし、早く妊娠に到達できるのではないかと思います。
最後にアドバイスをお願いします。
基礎体温は参考になりますが、あくまでも補助的なデータとしてとらえましょう。クリニックによっては基礎体温を付けなくてもよいと言われることもありますし、毎日の測定や数値がストレスになってしまうくらいなら無理をする必要はありません。
周囲の人やネットからもたらされる様々な情報に迷うこともあるかもしれません。担当医を信頼してなんでも相談し、そこで納得して解決していくのがベストだと思います。診察中に聞きそびれたことがあった場合は、採血や注射の際に看護師に相談してみるのは如何でしょうか。そこで解決する場合もありますし、改めて担当医に聞いた方が良いか判断してくれるかもしれません。不妊治療は医師・看護師・培養士のチームワークが大切です。適切な情報共有ができているかどうかも不妊治療クリニックを選ぶ際の大事なポイントです。