血液検査の結果によって排卵誘発剤を選定すると成熟卵が育つ?麻布モンテアールレディースクリニックの山中智哉先生にお教えいただきました。
誘発方法と血液検査の関係について
山中先生からの回答
papicoさんからの1の質問についてですが、一般的に排卵誘発を行う周期は、エコーで卵胞の大きさをチェックするととともに、血液検査でE2、LH、FSH、P4の数値をみながら進めていきます。なかにはエコーだけで目安をつけているクリニックもあるようですが、卵胞数が少なかったり、卵胞が小さい時であればまだしも、特に複数個の卵胞を誘発している時には、その数値は重要な指標となります
誘発剤の種類ですが、FSHのみの「FSH製剤」と、LHとFSHが混合されている「HMG製剤」の大きくわけて2タイプがあります。「HMG製剤」はLHとFSHの比率によって3種類ほどあります。
血液検査でLHやFSHの数値をみながら排卵誘発に使用する薬剤を決めるクリニックと、一定の決まった薬剤だけを使用しているクリニックがあります。例えば、卵子の成熟にはある程度LHが必要であるということが知られており、前者はそれに基づいてLHが含有されている製剤を使用しますし、後者は、体内にすでにLHがあるのでFSH製剤だけでよいという考え方を持っています。
両者の意見をまとめますと、卵巣機能が正常な患者様にとっては、選んだ薬剤によって卵胞の育ち具合が大きく異なることはないと考えますが、卵巣機能が低下している方や、多嚢胞性卵巣の方は、通常よりもLHが高値を示しますので、それに則した薬剤の選択が必要となります。
採卵できた卵子9個がすべて未成熟卵というのは、選択された薬剤が原因というよりは、他の原因が考えられます。
その原因としては以下のような可能性があります。
原因として考えられるのは、PCOの可能性と採卵のテクニック
まずは「卵胞がピークに到達していない状態で採卵」をしているケースです。D14での採卵は、通常採卵日となりうる日程でありますが、必ずしもそこがベストとは言い切れません。卵胞の発育が遅い方にとっては、D15以降に成熟卵胞となることはあります。一見エコーでは大きな卵胞に見えても、血液検査でホルモン値を確認していない場合、卵胞としてのピークに達する前に採卵してしまい、未成熟卵しか採れないという状況になっていることがあります。
次に考えられるのが「PCOの傾向があり、排卵誘発剤に対する反応が芳しくない」ことです。panicさんから事前に頂いたシートにAMH(アンチミューラリアホルモン)が5.8とあり、やや高めのため、PCO(多嚢胞性卵巣症候群)の可能性が考えられます。PCOの場合、卵胞の発育が遅れやすく、薬剤への反応も鈍いことがあり、通常よりも慎重に採卵日を決定する必要があります。
また、5.8というAMHから察するに採卵数が9個となっていますが、育った卵胞はもっとたくさんあった可能性があります。採取した卵子がすべて未成熟卵であったことから推定すると、採取すべき有効な卵胞からは卵子を採取できず、採取できた卵子が中小の卵胞由来のものだったために、すべてが未成熟卵となった可能性も考えられます。
今は未成熟卵を培養液内で育てる「IVM」という方法も
そしてご質問の2についてですが、未成熟卵でも培養液内で成熟させる方法(IVM)もあります。ただしあとから胚盤胞になった未成熟卵は、恐らく未熟度が軽かったと考えられます。
今後は、エコーと血液検査の両方で卵胞の発育状態を確認し、ホルモン値をみてベストな時期に移植することが妊娠成立の近道に
今後は、血液検査でわかるE2、P4、LH、FSHのホルモ値とエコーをよく確認しながら、最適な時期に採卵することが大切です。また、一番大きく育った成熟卵をきちんと採取できる技術をもった医師に採卵してもらうことも大切です。
さらに、いつ、どんな状態で移植するかもとても重要です。たとえば今回のケースですと9個採卵できているということは、恐らくE2が2000pg/ml以上になっていたと考えられます。通常の月経周期における排卵期のE2は300〜400pg/ml前後なことを考えると、新鮮胚の移植には適したホルモン環境ではなかったと思います。また、新鮮胚を移植するには、採卵決定時にP4が上がっていないことが条件の1つです。卵胞が成熟し、排卵の時期に近づくと微量なP4が産生され始めますが、複数の卵胞を排卵誘発している際には、そのP4の上昇の程度が大きくなる傾向があります。P4の上昇が早く生じると、それによって着床の窓がずれるため、新鮮胚移植の着床率が低下します。
AMHが高い人は、排卵誘発をすると複数の卵胞が育つ可能性があります。採卵前のエコーで、「卵胞数が全部で何個あって、そのうち成熟卵は何個くらいになるか」ということは把握できることですので、事前にそういったことを確認できれば、安心して採卵の臨めるのではないかと思います。さらに、採卵前のE2の値をきちんと確認してもらいましょう。panicさんの場合、もし9個の卵胞がすべて十分であったとしたら、他の中・小卵胞の分も含め、E2が3000~4000pg/mlくらいには到達しているべきと考えます。
さらにE2が高くなると、LHサージも起こりやすいため、LHサージをコントロールした排卵誘発を行なうこともポイントとなります。クロミッドの連続服用や、アンタゴニストの注射、スプレキュア等のGnRH製剤の点鼻が、その方法となります。例えばE2が3000pg/ml以上というのは、数値上は高い領域にありますが、大きい卵胞が複数個含まれている場合もあれば、多数の中小の卵胞が形成されてそうなっていることもあります。後者の場合、LHサージを抑えながら、成熟卵胞が複数個形成されるまで待たなければ、どれだけE2が高くても、採取した卵子の多くが未成熟卵となってしまいます。
妊娠するためにはいろいろな方法があり、医師によって選ぶ方法も異なります。ただ医師の選択に不安や疑問を抱えたまま治療を続けるとストレスの原因になってしまうこともあるでしょう。ストレスを抱えて治療自体がつらくなってしまわないよう、わからないことがあったら、かかりつけ医にぜひ聞いてみて下さいね。