良質の胚を数回移植しても着床しない着床不全や不育症の検査として注目を集める「EndomeTRIO」。子宮内環境のお話を中心に竹内レディースクリニックの竹内一浩先生に伺いました。
着床不全と不育症の治療に有効なTRIO検査
着床不全とは良好な受精卵を繰り返し移植しても着床しないことをいいます。着床のメカニズムは非常に複雑で、着床不全にはさまざまな原因があるため、個々の症例に応じて適切な検査および治療を選択することが必要です。
着床不全の原因は大きく二つに分かれます。一つは受精卵側の原因、もう一つは子宮(母体)側の原因です。受精卵側の原因の場合は、希望すれば胚の染色体の数に異常がないかを調べる着床前胚染色体異数性検査(PGTーA)を行います(※)。子宮(母体)側に原因がある場合は、まず、抗リン脂質抗体症候群、凝固能異常、自己免疫抗体異常、抗プロラクチン血症、甲状腺機能異常、黄体機能不全などのホルモン異常を調べる血液検査をします。次に子宮内の炎症や癒着、中隔子宮など子宮形態異常を診断する子宮鏡検査を行い、癒着やポリープがあれば切除するなどの治療を行います。
ここまでで何も原因が見つからない場合は、着床の窓とよばれる移植と着床のタイミングが合っているかを調べる子宮内膜着床能検査(ERA)と、子宮内膜に存在する細菌の種類と量を調べる子宮内細菌=環境検査EMMA、ALICEをおすすめしていて、この3つを同時に行うのがTRIO検査です。最近では、自己多血小板血漿(PRP)による再生医療という最新の治療法も登場しました。当院でも導入を予定していて、今まで以上にさまざまなケースの患者さんに対応する治療法の引き出しが増えることを期待しています。
子宮内環境を整えて、着床しやすい状態をつくる
子宮内は無菌だと長く考えられてきましたが、近年になり細菌がいることが判明し、治療自体も飛躍的に進歩しました。子宮内細菌のなかでも、着床に関連するラクトバチルス属の菌(乳酸菌)の割合は日本人女性の場合、90%以上いるのが望ましいとされていて、少なければ着床が難しくなるだけでなく、妊娠しても不育症や早産の原因となる可能性があります。EMMA検査をして、乳酸菌の割合が少なかった場合は、増やすための治療を行います。割合がさらに低い場合は、治療効果を判定するために抗生剤+乳酸菌補充治療をしたあとに、EMMA検査の再検査を推奨しています。
ラクト
着床不全の原因になる慢性子宮内膜炎の原因菌を調べるALICE検査で該当する菌をもっていることが判明した場合は原因菌に応じた抗生剤を投与します。
当院では子宮内細菌=環境の検査を2017年から導入しており、2019年までに500件以上の検査実績があります。EMMA/ALICE検査は2019年1月から導入し、1年間で約170件の検査を行いました。このうち、ラクトバチルス90%以上で問題なしと判定された方は非常に少ないという結果でしたが、抗生剤・乳酸菌補充による治療後に再検査を施行した方のうち約75%の方が改善。昨年のデータですので治療後の移植をまだしていない方も多いのですが、約半数の方がその後の胚移植で妊娠されていることから、治療を行ったことで子宮内環境が整い、着床しやすい状態になったのだと考えられます。
妊娠・出産の可能性を高めるTRIO検査に期待大
TRIO検査の方法は、ホルモン補充周期の場合は黄体ホルモンのプロゲステロン投与日を0日とし、5日後に子宮内膜組織の一部を特殊な器具を用いて採取します。その際、子宮内膜の厚さは最低でも6.5 mm以上とします。自然周期の場合は排卵日から7日後に採取。次世代シーケンサー(NGS)での検査結果が出るのは約3週間後で、費用は約15万円〜が目安です。当院では県内外から難治性の患者さんが受診されているので、一般的なクリニックよりも比較的多くの患者さんが検査を希望される傾向にあります。
着床のタイミングや、着床不全・不育症の原因となる細菌の存在がわかり、有効だと考えられるTRIO検査。採取できる卵子が少ない、高齢であるという方はもちろん、特に原因が見つからないのに、良質な受精卵を移植しても妊娠できない人や、できるだけ早く妊娠に近づきたいという方は、積極的にトライしてみてはいかがでしょう。