3つの子宮内膜検査に注目!

着床しやすい環境をつくるために、3つ の 子宮内膜検査に注目!

質のよい胚を何回移植しても着床しない着床不全の 有効な検査として、注目を集めている子宮内膜検査、 「EndomeTRIO(ERA、EMMA、ALICE)」。

3つの検査でどんなことがわかるのでしょうか?

足立病院の中山貴弘先生にお話を伺いました。

中山 貴弘 先生 1985年愛媛大学医学部卒業。国立大阪病院(現・大阪医療センター)産婦人科勤務、 京都大学医学部産婦人科講師などを経て、2003年足立病院不妊治療センター長に。 2010年同病院生殖内分泌医療センター長就任。

着床や妊娠のカギになる インプランテーションウィンドウ

質のよい胚を何回移植しても着床しない「着床不全」は、原因不明とされることも多く、治療に行き詰まるケースがあります。私たちの現場でも有効な手立てが見つからず、治療を断念される妊娠適齢期の方をたくさん見てきました。

着床しない原因の一つに子宮内膜の問題があります。体外受精の治療では子宮内膜に移植した胚が着床して妊娠が成立します。しかし、子宮内膜には胚を受け入れる時期(インプランテーションウィンドウ:着床の窓)があり、移植のタイミングがずれると着床はうまくいきません。

インプランテーションウィンドウの詳しいメカニズムは、長らく生殖医療のブラックボックスとされてきました。胚を受け入れるおおよその時期はわかっていましたが、それには個人差があり、正確な診断は困難です。そこで、経験的に移植のタイミングを診断し、それでうまくいかない時は、次の移植のタイミングを早めたり、遅らせるなどの工夫をして妊娠につなげてきました。

一人ひとりに最適な 移植時期を特定する「ERA」

この問題を解決する一つの方法として期待されているのが、ERA(子宮内膜着床能検査)です。インプランテーションウィンドウが開いたり閉じたりするシステムは、すべて遺伝子がコントロールしています。ERAは子宮内膜の一部の組織を採取して、236 種類の遺伝子の動きを調べます。そして一人ひとりに最適な移植のタイミングを半日単位で特定することができます。

  インプランテーションウィンドウは、黄体ホ ルモン(プロゲステロン)の分泌が始まってから数日後に開いて、約1日で閉じます。検査はホルモン補充周期で行うことが前提です。検査の結果が「黄体ホルモンの投与開始後 103時間±3時間で移植してください」と出たら、インプランテーションウィンドウは毎周期、この同じタイミングで開きます。そのためERAは再現性があるといわれています。

当院は 2019 年3月からERAを導入しています。おもに質のよい胚盤胞を2〜3回移植してもうまくいかない方を対象に、毎月20 人程度実施してきました。その結果、移植のタイミングが完全にずれている方が4割近くいることがわかりました。なかでも「1日遅い」という方がもっとも多く、「2日遅い」という結果もありました。5回の移植でうまくいかず、6回目でERAを実施した方は、「1日遅く移植してください」という結果が出て、その通りに移植すると見事に妊娠されました。

ERAを導入してから、着床不全の方の妊娠数は確実に増えており、劇的に妊娠が成立するために、患者さんはもちろんのこと、私たちも驚いています。

子宮内環境がわかる 「EMMA」「ALICE」

子宮内膜の問題は、ERAのほかにEMMA(子宮内膜マイクロバイオーム検査)とALICE(感染性慢性子宮内膜炎検査)でも多くのことが解明されています。
  これまで子宮内は無菌状態といわれてきまし たが、近年は多様な菌がいることがわかっています。その一つが着床と妊娠に影響すると考えられているラクトバチルス菌です。EMMA は子宮内膜に存在する細菌のバランスを調べる検査で、とくにラクトバチルス菌の割合に着目しています。この割合が低下すると妊娠率が下がり、流産率が上がるといわれています。実際に検査をしてみると、ラクトバチルス菌が0%ということもあります。このような場合は子宮内フローラを改善するプロバイオティクスとラクトフェリンのサプリの摂取が有効とされています。
 また、着床不全の原因の一つとされる慢性 子宮内膜炎では、気づかないうちに悪玉菌に感染していることが多く、不妊症の方の約 30 %、なかでも着床不全や不育症の方の約 60 %が感染しているともいわれています。ALICEは、子宮内膜炎のおもな原因とされる 10 種類の細菌を調べる検査です。当院は開院以来、移植前に子宮鏡検査などを実施し、慢性子宮内膜炎の原因になりうる子宮内の細菌感染の予防と治療を徹底してきたつもりでした。しかし、ALICEでは子宮鏡検査で問題が見つからなかった方からも悪玉菌が見つかることがあります。
さらに、陽性の場合は詳しい原因菌を特定し、それぞれの原因菌に適切な抗生剤や投与期間などが詳細に推奨されますので、よりピンポイントでの治療が可能になりました。

3つの検査は原因不明の 手がかりを知るためにも有効

治療中の患者さんのなかには、「いま自分はどんな状態なのだろう?」と、漠然とした不安とストレスを抱えている方も少なくありません。私たちも「こんなに質のよい胚を移植しても、なぜ妊娠しないのだろう?」と頭を抱えながら、「次はこの日に移植してみよう」「それでもダメならこの日にしよう」というように、手さぐりで治療を続けるしかありませんでした。

遺伝子発現レベルで原因を特定するERA、EMMA、ALICEの診断の正確性は、これまでの検査をはるかに上回っています。3つの検査を有効に活用すれば、大切に育てられた貴重な胚を、その方のベストな状態とタイミングで移植し、着床率や妊娠率を高めることができます。

  また、原因不明の不妊治療で大切なのは、原 因の特定に少しでも近づける「何らかの手がかり」を見つけることです。なかにはERA、EMMA、ALICEでも問題が見つからず、妊娠にいたらないことがあります。しかし、その場合も本当の原因が子宮内膜以外にあることが見えてきます。次の治療の手がかりがわかれば、患者さんは気持ちを整理して前に進みやすくなります。何よりも原因不明の原因を一つクリアした安心感はとても大きいと思います。今後は、ERA、EMMA、ALICEを移植前のオプション検査として提案し、着床不全で悩まれている方はもちろんこと、より多くの患者さんに広く役立てていきたいと思っています。

EndomeTRIOは1つの検体で3つの検査を同時に行います。

ALICE (感染性慢性子宮内膜炎検査)

子宮内膜炎に関与する主な病 原性細菌10種の有無を調べ、 陽性の場合は内膜炎の原因と なっている細菌を特定します。

EMMA (子宮内膜マイクロバイオーム検査)

子宮内膜の細菌バランスを、着 床・妊娠に影響すると考えられ るラクトバチルス菌の割合に着 目して分析します。

ERA (子宮内膜着床能検査)

子宮内膜の着床に適した期間 (着床の窓)を個々に特定し、 最適なタイミングで胚移植する ことで妊娠率を高めます。
>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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