体外受精にステップアップしても流産を繰り返す場合は染色体異常の疑いが。着床前診断では胚盤胞を解析し染色体異常のない胚を移植に選択できます。診断を受ける注意点と心構えを浅田レディースクリニックの浅田義正院長に聞きしました。

浅田 義正 先生 名古屋大学医学部卒業。1993 年、米国初の体外受精専門施設に留学し、主に顕微授精を研究。帰国後、日本初の精巣精子を用いた顕微授精による妊娠例を報告。現在、愛知県の勝川、名古屋駅前のほか、昨年5月には東京・品川駅前にもクリニックを開院。

ドクターアドバイス

●胚盤胞到達率などでよりレベルの高いクリニックを選択
●検査を受けるメリットがあるか、今一度確認
●結果を聞いた後の判断に迷うかも

胚の評価としてのPGTーA

着床前胚染色体異数性検査=PGTーA(Preimplantation genetic testing for aneuploidy)は、体外受精によって得られた胚の染色体の異数性を、移植する前に調べる検査です。

現在は、まだ研究段階で、なかなか妊娠しない、妊娠しても流産を繰り返してしまう方などに向けての検査になっていますが、将来的には胚の評価として位置づけられる検査です。

PGTーAは、培養した胚盤胞の外側の部分から取った細胞を用いて染色体数を評価する検査で、これによって染色体の異数性やモザイクなどを判断していきます。でも、実のところは現在の検査法においても妊娠率は60~70%どまりです。

この検査で妊娠ができるかどうかなど、すべてがわかるわけではありません。生物であるヒトの細胞は想像以上に複雑で、工業品とは根本的に違うのです。例えば、車であれば、1つのパーツの不具合が全体の不具合につながりますが、生物の細胞には、どれかが力を失ったら、別の細胞がそれを補う働きをするのです。これこそが生命の神秘で、単純ではありません。

検査を受けても、結果は100%ではない

先に申し上げた通り、体外受精をしても流産を繰り返す、といった場合においては、着床前診断はとても役に立つと思います。培養した複数の胚のうちのどれを移植するかは、通常は見た目だけで判断されます。きれいな形を保つものほど、“よい胚であろう”といった判断がされてきましたが、遺伝子レベルの検査の登場によって必ずしも見た目とは一致しないことがわかってきました。

また、着床前診断で、検査するのは胚のほんの一部であるために、その際に、たまたま正常な部分を採取したというときもあり、逆にたまたま異常な部分を採取したといったこともあり得ます。さらに、なかには「モザイク」と呼ばれる判断に戸惑うケースもあります。もともと検査をする胚盤胞のまわりの細胞と赤ちゃんになる部分の細胞が100%一致するわけでもありません。この胚なら絶対に妊娠する! といった確約をすることは、どんなに優れた医師であっても困難だといえるでしょう。

移植胚を“選べる”かが、検査をするかの目安に

色々なデータがありますが、そもそも35歳以下の若い人でも受精卵の5、6割は染色体異常があるとされます。40歳前後だと8割以上、45歳以上だと9割以上と、加齢にともなってその確率は高くなります。

また、赤ちゃんが生まれる確率としては、35歳ぐらいまでは13~14個の卵子のうちの1個、40歳前後になると30~40個のうちの1個、43歳以上となると80~90個のうちの1個と、確率はどんどん低くなる傾向にあります。つまりは、年齢が上がれば上がるほど正常な受精卵が減り、妊娠できる確率は低くなり、反比例して、染色体異常が起きやすくなり、流産や死産、ダウン症などの先天性の障がいを持ったお子さんが生まれる確率が高くなるということです。

ご経験された方にはつらい言葉となってしまいますが、流産や死産というのは、ある意味で自然淘汰で、何らかの異常があったために、育つことができなかったともいえるでしょう。

それゆえ着床前診断を受けるに際しては、ベネフィットがある方と、そうではない方がいるということを知っておいてください。採取できる卵子がたくさんあり、培養した胚から“選べる”若い方などにとっては奏功しますが、胚が2、3個しかない場合には、どうしてもそれを移植するしか選択肢はなく、検査する意味があるかどうかははなはだ疑問ですし、検査することで一層の不安を招くことも考えられます。先ほども述べたように検査の精度も100%ではありません。また、卵巣刺激や胚盤胞到達率といった培養技術など、培養室のレベルによっても差が生じることもあるので、検査の際はクリニック選びも慎重に検討してください。

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