精子所見が悪いのは 精索静脈瘤が原因? 今後の治療について
相談者:おかじさん(33歳)5 年前に自然妊娠で 1 人出産、2 年前に流産、約1 年前に息 子が病気で亡くなり、不妊治療を始めました。夫の不妊原因(精 子運動率 15%、正常形態率 48%、総精子数 1920 万、精 子濃度 640 万 /ml、精液量 3ml)がわかり、顕微授精をす すめられました。しかし、ネット上には男性不妊の原因の多くは 精索静脈瘤で、手術で改善する人もいるとありました。ただ、 手術の後遺症や、子どもができなかった時の絶望感が怖くて 迷っています。また、自然妊娠を望んでいる自分もいます。
精子検査の結果についてどう思われますか。
江夏先生● ご主人の精子濃度と運動率 は基準値より低く、乏精子症と精子無力症の状態と思われます。しかし、精子の状態は外的要因でも変化します。たとえば、寒い季節は自宅で採精した容器を病院に運ぶ間に、運動率が落ちることがあります。
また、ホルモンバランスの乱れ、睡眠 不足、亜鉛不足、ストレス、メタボなどの生活習慣が原因で精子の状態が低下することもあります。生活習慣を見直すと精子所見が改善することもあるため、総合的な判断が必要です。
精索静脈瘤は精液検査だけでは判断が難しく、陰囊エコー検査などの詳しい検査も必要となります。そのうえで、乏精子症が精索静脈瘤によるものでしたら治療をおすすめします。
精索静脈瘤とはどんな症状ですか?
江夏先生● 精巣の静脈が緩んだりする ことで血液が逆流し、静脈に瘤ができる病態です。男性不妊の方の約40 %に認められ、精巣機能を低下させることがわかっています。一般的には無症状ですが、まれに痛みなどの自覚症状を伴うことがあります。
精索静脈瘤は約1時間程度の日帰り手術で治療できます。保険診療の手術 になり、自己負担は約4万円です。
当院は脚の付け根から約2.5 ㎝あたりを切開し、取り出した静脈を糸で縛って逆流を止める「顕微鏡下低位結紮術」を行っています。手術後2〜3カ月で精子の状態が変化し、約 60 %の方は精子 濃度が2倍以上に増加したり、運動率が正常範囲内に改善することが確認されています。一方、残りの 40 %の方は精索静脈瘤の進行は防げても、精子所見に改善が認められないことがあります。ただ、術後後遺症が残るような合併症は非常にまれです。
精索静脈瘤の場合、今後の治療はどうなりますか。
江夏先生● 手術後の精子所見の推移をみながら治療方針を総合的に判断して います。手術後に精子所見が改善した 場合は、体外受精や人工授精に移行できることもあります。また結果的に顕微授精になった場合も、精子のDNAの損傷率が低下し、顕微授精の成功率が高くなるともいわれています。
ご主人の治療で、自然妊娠の可能性も十分ありうると思います。奥様の状況はわかりませんが、過去に自然妊娠 されています。妊娠したことを前向きに捉えていただきたいです。