Q ホルモン補充をしない医師。 転院したほうがいいですか?
五十嵐俊夫先生 1985年埼玉医科大学医科大学卒業、日本産婦人科入局。 1993 年、日本医科大学大学院修了(医学博士号取得)。日本医 科大学千葉北総病院を経て、2001年より現職。一般不妊治療か ら高度生殖医療まで不妊治療を中心に、生理や更年期に関する不 調など、産婦人科全般の診察で女性の一生をサポート
目次
ドクターアドバイス
●黄体ホルモンには炎症を抑え子宮内膜をよい状態に整える作用があります。
●流産、着床不良が続いているのなら次はホルモン補充を考えるべき。
ぱんださん(43歳)からの相談 Q.昨年から治療を開始。体外受精を4回行ったのですが、1 回目は着床→流産、2回目からは移植前、移植後にホルモ ン補充などもなく、移植→検査→着床せずの繰り返し。4 回目移植時の排卵日ホルモン値でエストロゲンは39pg/ ml、プロゲステロンは2.0ng/ml、LHは6.2mIU/ml でした。先生に「ホルモン値が低いのにホルモン補充をし なくていいですか?」と尋ねたところ、「やせた畑にいくら 栄養を与えても種がよくないと育たない。卵の生命力がす べてで、卵が元気なら無事に育つ」といわれました。こ のまま、体外受精を行っても無事に妊娠・出産にたどり着 ける気がしなくて…。自然に任せるだけでなく、補充を行っ てもらえる病院に変えるべきでしょうか。
一般的に、体外受精の際はホルモン補 充を行うのでしょうか。
五十嵐先生 詳しいデータが記載されていませんが、採卵は自然周期採卵で行われたのでしょうか。一時期、「自然排卵だと体内から必要な量の黄体ホルモン(プロゲステロン)が分泌されるはずなので、補充をする必要はない」と考えて実施しないことが多かったのですが、臨床データやエビデンスが増えてきて、最近はホルモン補充をすることが一般的になってきました。
2019年の論文でも、自然周期で排卵誘発、胚凍結をした場合、黄体ホルモン補充群だと 39 %、非補充群だと 24 %と、 妊娠率に大きな差が出たと報告されています。足りない方だけということではなく、当院もそうですが、一律にルーティンとして補充を行っている施設がほとんどなのではないでしょうか。
なぜ黄体ホルモンを補充したほうがい いのですか。
五十嵐先生 受精卵に対する子宮内膜の受容能にはT細胞を介した免疫が関与しているとされています。T細胞には産生するサイトカイン(炎症を引き起こす物質)の違いによりTh1とTh2の2つに分類され、Th2が優位な状態だと着床しやすいといわれているのですね。プロゲステロンにはTh2を増加させる働きがあるので、補充して子宮内膜がTh2優位にシフトすることで着床しやすい環境をつくると考えられています。
担当の先生は「卵の生命力がすべて」 というお考えのようですが。
五十嵐先生 確かによい卵だったらどこにでも着床するかもしれません。たとえば子宮外妊娠だったら、卵管にも卵巣にも着きますよね。ただ、不妊症の方は卵子を含め、どこか弱いところがあるはず。できる限り周りの状況をよくしてあげたほうがうまくいくと思います。
この方は年齢が高く、流産経験もある。今の治療もうまくいっていませんから、やはり何か問題があるのでは。それなのに「卵の生命力だけで」というのは少し難しいと思いますね。
やはり補充したほうが望ましいという ことですね。
五十嵐先生 移植時の排卵日のプロゲステロン値が 2.0ng/ ml ということですが、おそらく4ng/ ml 以上は必要なのでは?
1週間目は 10ng/ ml 以上が一般的で、移植時はもう少し低くてもいいのですが、それにしても低めだと思います。補充したら結果が変わるかもしれないので、同じやり方を続けるのはもったいないですね。
通常なら、1回目の体外受精は補充なしで 実施したとしても、うまくいかなかった場合、次は補充を考えるはずです。
先生の方針が頑ななようなら、可能性を求めて転院を考えてもいいのではないでしょうか。