着床前診断レポート

セント・ルカ産婦人科が主催する「セント・ルカセミナー」。

23回目を迎えた今年は「着床前診断」をメインテーマに、 ジネコでもおなじみのドクターや各分野のスペシャリスト が活発な議論を交わしました。

宇津宮 隆史 先生 「国内における不妊治療の現場では、画期的な技術が次々と 開発される一方、ガイドラインの作成や倫理観に対する議 論が追いついていないのが現状です」。不妊治療を行う夫婦 と、その家族や親族にまで関わる遺伝要素を含んだ「着床 前診断」にテーマをしぼった今回のセミナー。主催した宇 津宮隆史先生は「今もっとも注目されている検査法の最新 情報や今後の課題、そして危惧されている点など、デリケー トな部分まで掘り下げました」と語ってくださいました。

キーワードはNIPT 次世代シーケンサー

特に注目と関心を集めたのは、着床前診断の最新 技術「次世代シーケンサー NIPT(注)」に関する講 演。

すでに外国では一般的な検査としての認識が高 まっているこの技術は、母体血から胎児の遺伝的解 析が行えるというもの。

それまでの羊水検査や絨毛 検査とは異なり、お母さんの血液を採取するだけで 赤ちゃんの遺伝子情報を読み取ることができる技術 です。

国内では実用段階までには至っていませんが (臨床研究として行われている)、患者さんのニーズ の高まりや、検査をする装置が比較的手に入りやす い価格まで下がったことを受け、「何を」「どこまで」 検査できて、「倫理上できないこと」との線引きを どうするのか、今後の生殖医療に不可欠な要素とな る「遺伝」をどう捉えるのかについて、活発な意見 交換が行われました。

(注 NIPTは無侵襲的出生前遺伝学的検査  noninvasive prenatal genetic testingの略)

Jineko読者の声

実際に着床前診断を受けて、子どもを授かっ ています。結婚が遅かったり、原因不明の 不妊で遅い段階で体外受精になったりする 場合は、流産で体も精神的にも傷つくのを 防ぐこと、それにより時間も大事にできる ので、染色体異常の有無にかかわらず、受 けられるほうが良いと思います。もっと扉 を開くべきと考えます。
流産を2回繰り返したため、不育症の検 査をしましたが問題が分からず、着床前診 断をしたいと思いました。しかし、通って いた病院の先生に着床前診断は勧めないと はっきり言われたため、主人と相談し、受 けるのはやめました。妊娠継続率や染色体 異常のことも気になりましたが、私たち夫 婦は先生のことを信じようと決めていたの で後悔はありません。
命の選別というが、着床不全で何度も移殖を 繰り返すことの苦痛やストレスの大きさを 考えれば、着床できる受精卵を移殖に使うと いう考え方は非常に合理的と考えます。生殖 年齢というタイムリミットとの戦いなので すから、より多くの施設で着床前診断ができ るようになることを強く望みます。

 国内の高度生殖医療を牽引する トップクラスの講師陣が勢揃い

【講演】

・「網羅的手法による次世代型着床前診断」  藤田保健衛生大学総合医科学研究所教授 倉橋浩樹先生

・「単一遺伝子疾患の着床前診断(PGD)の遺伝子診断のみを外部委託し、  PGDを行う新しい試みに対する検討」セントマザー産婦人科医院院長 田中温先生

・「ボストンレポート:新しい時代の出生前診断/着床前診断」新古賀病院婦人科嘱託医 斎藤仲道先生

・「PGSに対してエンブリオロジストは何を求められるだろうか?」  群馬パース大学教授/日本リプロジェネティクス代表 荒木康久先生 ・「出生前検査の質保証」(株)エスアールエル 別府弘規先生

・「PCOSの発生病態論」京都大学名誉教授/NPO法人生殖発生医学アカデミア理事長 森崇英先生

・「看護職としてできることー遺伝医療の現場からー」  聖路加国際大学遺伝看護学准教授 青木美紀子先生

・「わが国の少子化を考えるー差異と差別ー」内閣官房参与/慶應義塾大学名誉教授 吉村𣳾典先生

【座長】

大分大学産科婦人科学教授 楢原久司先生、京野アートクリニック理事長 京野廣一先生、ART 岡本ウーマンズクリニック院長 岡本純英先生、木場公園クリニック院長 吉田淳先生、大分大 学医学部産科婦人科診療教授 河野康志先生、浅田レディースクリニック理事長 浅田義正先生、 大分大学名誉教授 宮川勇生先生

>全記事、不妊治療専門医による医師監修

全記事、不妊治療専門医による医師監修

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