不妊治療の中で、保険が適用される婦人科手術。種類や費用などをセントマザー産婦人科医院の田中温先生にお聞きしました。
不妊治療で行うのは妊娠を目的とした手術
不妊治療で行われる保険適用の婦人科手術には、卵管鏡下(もしくは子宮鏡下)卵管形成術、子宮筋腫核出術、腹腔鏡下子宮筋腫核出術、卵巣囊腫、卵管水腫の卵管鏡下手術などがあります。また、診断学的な検査の腹腔鏡検査や子宮鏡検査も保険適用になります。
いずれも、妊娠を望むために行う検査や手術であり、一般的な婦人科としての手術とは目的が異なります。たとえば、小さくても貧血の原因となる粘膜下筋腫や、7㎝以上でがん化の可能性がある卵巣囊腫は婦人科的には除去。5 ㎝以上の子宮筋腫がある場合は、生理痛や貧血などを改善することが目的であれば手術によって除去しますが、不妊治療では大きくても症状がなければ(日常生活に支障がなければ)必要ないと判断して除去しないまま治療を継続します。しかし、何回も体外受精が失敗するなど何かしらの理由が疑われれば手術を考えるかクリニックによってはそのまま体外受精を繰り返します。このように、あくまでも必要性が認められれば行うのが不妊治療の中での婦人科手術です。
これらのお話を、当院ではご夫婦一緒に聞いてもらうため日曜や祭日に予約制で行っています。手術は100%安全ではなく、予期せぬ後遺症や副作用などがあることも理解してもらわなければならないため、十分に説明する必要があるのです。
ご夫婦の理解が得られれば感染症検査などの術前検査をし、特に問題なければ手術を行い、何か問題が見つかれば専門医と相談のうえ、手術スケジュールを決めていきます。
卵管閉塞と癒着を改善し、自然妊娠を目指す
卵管は卵子と精子が出会い、受精し、受精卵を発育させる場所です。しかし、卵管が左右とも閉塞している場合は精子と卵子は出会うことができません。子宮卵管造影検査で診断し、軽い詰まりに対しては通水治療、閉塞部分の開通には卵管に FTカテーテルという細い管を通す卵管鏡下卵管形成術を日帰りで行います。クラミジア感染や子宮内膜症、虫垂炎などが原因として考えられますが、原因不明であることが多く、左右の卵管が両方とも詰まっている両側卵管閉塞は治療を受けないかぎり自然妊娠が不可能だとされているため、「絶対不妊」といわれています。
卵管で卵子と精子が出会うためには、卵子を卵管に取り込む必要があります。卵巣から排卵された卵子は自然に卵管に入るのではなく、卵管の先端にある卵管采が動いて吸引、卵管の中に取り込みます。これも卵管の大切な役割の一つですが、卵管の周囲に癒着があれば卵管采は正常に動くことができないため、卵子をキャッチできず、卵管に取り込めません。これをピックアップ障害といいます。原因は子宮内膜症や子宮筋腫、腹膜炎、感染症、過去に受けた開腹手術などが挙げられます。腹腔鏡検査をすれば確実に診断でき、同時に癒着の剝離もできます。通常はなかなか妊娠できなくても卵管造影検査で良好な結果が出れば卵管機能に問題ないと診断されるため、卵管周囲の癒着は発見されにくい不妊症の原因の一つといわれています。
卵管閉塞と卵管周囲癒着は併せて発症しているケースが多いのですが、改善されれば体外受精まで進まずに自然妊娠または人工授精による妊娠の可能性が高くなります。そのため、当院では、この2つを同時に治療できる腹腔鏡補助下卵管形成術という方法を推奨。イメージはF Tカテーテルと同時に腹腔鏡と子宮鏡検査を時に行うような治療法。不妊の原因をより確実に改善することができ、3割から4割は自然妊娠できることもデータで証明されています。保険適用で、入院は2泊3日と短くて済むことも推奨の理由です。特に若い人や結婚間もないご夫婦などで治療を受けている場合は、体外受精を検討する以前に、このような治療法があることを知っていただきたいですね。
モデルケース
年収約 370~770万円 腹腔鏡補助下卵管 形成術の場合
夫婦ともに20代で結婚2年目。他院で両側卵管閉塞と診断。通水検査、卵 管鏡下卵管形成術、体外受精というステップアップをすすめられたが、ほ かに方法はないかと相談。腹腔鏡補助下卵管形成術で妊娠に至った。
- 腹腔鏡補助下卵管形成術・術前検査……………………9000円(採血、経皮酸素濃度分圧、体重測定、血圧)・腹腔鏡補助下卵管形成術…330,000〜360,000円
・片側閉塞……………………180,000〜220,000円
・別途初診料等
治療費合計 33万9000円
ただし、高額療養費制度を申請した場合、実質の支払金額は約80,000円程 度となります。詳細は、本号46ページを参照ください。
※手術内容によっては別途検査が必要な場合あり。