先生からの転院のすすめはもう見放されたということ?

自分からではなく、治療を担当している先生から転院をす すめられると「もう見放されたのかも……」と思う人もい るようです。

その真意はどこにあるのでしょうか。

秋山レ ディースクリニックの秋山芳晃先生にお話を伺いました。

秋山 芳晃 先生 東京慈恵会医科大学卒業。東京慈恵 会医科大学附属病院、国立大蔵病院 に勤務後、父親が営んでいた産科医院 を継ぎ、不妊症・不育症診療に特に力 を入れたクリニックとして新たに開業。
山子さん(41歳)からの相談 Q.顕微授精のため、初めて採卵しました。クロミフェ ンとHMG併用で1個採れましたが、変性卵子といわ れて顕微授精できませんでした。移植のため来院し てその結果にショックで脱力しているところに、医師 は「転院を考えてみてはどうか」と具体的に都内の ある病院名をあげました。しかも「気分転換に」と。 医師側から転院をすすめられる理由って何でしょう?  その病院の通院期間は半年くらいです。同じ市内 にもう1つ不妊専門病院がありますが、方針が違うと 転院するメリットってあるのでしょうか。

患者さんに転院をすすめるのは どんな時ですか?

当院でも患者さんに転院をすすめるこ とがありますが、それにはいくつかのケー スがあります。

1つは、治療や検査中に対処が困難と思 われるトラブルが予測される合併症や既往 症をおもちの場合。たとえば高血圧症や不 整脈、精神疾患などです。てんかんをもっ ている方の場合、子宮卵管造影検査などの 際、痛みの刺激で発作が起こることもゼロ ではありませんから、このような方は「内科 や神経科もある総合病院で不妊治療を受け たほうがいいのでは」とお話ししています。

婦人科疾患においても同様で、5 cm 以 上の大きな子宮筋腫がある方は早産など 妊娠した後にトラブルを起こしやすいの で、手術ができる施設、もしくは産科の 先生がいて出産までフォローできる施設 をご紹介しています。もちろん、手術だ けほかの施設で行って疾患が改善すれ ば、その後、不妊治療は当院で受けるというケースもあります。

それから、ご主人が無精子症で、精巣 内精子採取術(TESE)をした後に顕 微授精という流れの治療が必要と思われ る場合や、通常のやり方ではまったく卵 子が採れない早発卵巣機能不全などの場 合、専門的な技術や方法をもっている施 設への転院をご提案することがあります。

以上のことはどれも、当院よりも専門 的な施設で治療を受けたほうが安心かつ 安全、スムーズに不妊治療を受けていた だけるから、という理由になります。

特殊なケース以外でも提案する ことはあるのでしょうか

当院と異なる治療方針が患者さんに とってよいと思われる場合も、転院をお すすめすることがあります。たとえば、 山子さんのように高齢の方だと、繰り返 し刺激してもなかなか卵胞が育たないこ とがあるんですね。そのような時は「刺 激をせず、自然周期で卵子を採るような施設で治療をしてみたらどうでしょうか」 とお話しすることもあります。卵巣を刺激 すると卵胞が育たないけれど、自然だと排 卵するという方もいらっしゃいますから。

 患者さんに合うと思われる治療を行って いて、実績があり信頼できる施設名を具体 的に推薦することもあります。

また、原因不明の不妊で治療期間が長 く、精神的に行き詰まっている場合、年 齢が若い方なら治療のお休みを提案しま す。年齢が高い方だと時間がありません から、気持ちを切り替えるという意味で 「どうしましょうか」と、転院も一つの選 択肢としてお話をすることがあります。

投げ出されてしまったように 感じる方もいるのでは?

山子さんは先生から「転院を考えてみて はどうか」といわれ、ショックを受けられ たようですね。確かに、医師側は好意でお 話ししても「見捨てられたみたいで悲しい」 と思う患者さんもいるかもしれません。

環境や心境の変化、同じ治療でも薬の 使い方などが微妙に違ったりするのか、 転院してすぐに妊娠される方もいらっ しゃいます。ですから、転院をすすめる のは「もうどこかへ行って」というネガ ティブなものではなく、「こうしたほうが 妊娠できるかもしれない」という気持ち からだと思います。あらゆる可能性を考 えて患者さんの妊娠を願うのは、どんな先生も同じだと思いますよ。

  もちろん最後に決めるのは患者さん自身 ですから、そのまま治療を続けるなら残っ てもいいですし、転院してもうまくいかな かったという場合は、また元の施設に戻っ て来られてもかまわないと思います。

転院したいけれど先生には 話しづらいという人も

担当の先生に直接言いづらい時は、看 護師や電話で受付事務に伝えてもらって もかまいません。紹介状やこれまでの検 査・治療データも、申し出ていただけれ ばお渡しできます。

転院先にもっていく内容として、ホルモ ン検査のデータ、一般不妊治療を受けて いたのであれば子宮卵管造影の結果、体 外受精であればこれまで行ってきた刺激 方法や採卵数などがわかるといいですね。 それに加え、麻酔に伴うトラブルやOH SS(卵巣過剰刺激症候群)の有無など の記載もあれば参考になると思います。

メッセージ

さまざまな検査や治療を繰り返し試 しても「卵子をつくれない」「いい 受精卵にならない」という場合は一 度環境を変えたほうがよいと考え、 まだ若い方でも転院をおすすめする ことがあります。それは患者さんに 早く妊娠していただきたいという気 持ちであって、さじを投げたという ことではありません。とはいえ、医 師からすすめられたらショックに思う 方もいるかもしれないので、「選択 肢の1つとして転院をす すめられることもある」 と頭の隅に置いておか れたらどうでしょうか。
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不妊治療に関するドクターの見解を取材してきました。